共働き夫婦における夫の約7割が「妻の家事ハラ」を経験している――。住宅メーカーの旭化成ホームズがそんな調査結果を2014年7月14日に発表した。
「妻の家事ハラ」は「夫の家事協力に対する妻のダメ出し行為」を指すそうだが、インターネット上ではその定義や調査内容に問題があるとして批判が相次いでいる。
「妻の家事ハラ」で夫の9割「やる気なくす」
調査は旭化成ホームズが全国の子育て(末子6歳以下)をしている30~40代の共働き夫婦(妻がフルタイム勤務)1371人を対象に、6月20日から23日にかけてインターネット上で行った。
キーワードの「妻の家事ハラ」は「夫の家事協力に対する妻のダメ出し行為」と定義していている。具体的には、妻が家事に不慣れな夫に対して「やり方が違う」「やり方が雑、下手」「かえって手間が増える」などと指摘することらしい。
調査結果によると、自宅で家事を「手伝う」夫は9割を超え(93.4%)、そのうち「妻の家事ハラ」を受けた経験がある夫は約7割(65.9%)。さらに家事ハラを受けた際に「やる気がなくなった」という夫は約9割(89.6%)にのぼったという。
同社が公式サイトで発表すると、いくつかの媒体がこれを紹介して話題になった。ところがインターネット上では共感を示す声もあったが、「妻の家事ハラ」の定義や調査内容について、「『家事は妻が行うもの』だということを前提にしている」「夫が家事を行わないのは妻に問題があるとの誤解を与えかねない」などの理由で問題視する声がいくつも上がり、波紋を広げることとなった。
乙武洋匡「『夫が家事を"手伝う"』という表現がおかしい」
作家の乙武洋匡さん(38)は16日、ツイッターで「そもそも、共働き夫婦なら『夫が家事を"手伝う"』という表現がおかしいよね」と疑問を投げかけた。調査では「あなたは(あなたの夫は)自宅で家事を手伝ったことがありますか?」という設問が最初にあり、「よく手伝う」の47.2%と「たまに手伝う」の6.6%を足して、9割以上が「手伝ったことがある」としていた。
同様の指摘は他にもみられ、
「家事は手伝いではなくて仕事」
「『手伝い』ということは監督権は妻。評価が高いか低いかの話なのですが」
「共稼ぎ夫婦では、夫の家事(子供がいたら育児も含みます)は手伝いじゃなくて妻との共同作業です」
といった意見が寄せられていた。
また、妻からの家事におけるダメ出しを「ハラスメント」と定義することに対しても「『指導・指摘』と『ハラスメント』が混同している」などと反論は多い。セクハラ・パワハラ防止コンサルタントの女性は「定義がおかしい。事実を指摘して指導するのはハラスメントではない。この(調査結果をもとにした)記事自体が子育て中の女性への嫌がらせとして機能している」とツイッターで訴えた。
ジャーナリストの佐々木俊尚氏(52)はツイッターで「こんなことまでハラスメントと呼んでるのか」と驚き「本来のハラスメントの意味の重みがどんどん軽くなってしまうのでは」との危機感も示した。
旭化成ホームズ「誤解を与えてしまい、大変申し訳ない」
旭化成ホームズに取材したところ、同社宛てにも調査に関する意見が数件届いているそうで、広報担当者は「大変申し訳なく思っております」と話した。
同社の「共働き家族研究所」は25年にわたって共働き世帯の暮らしについて研究を続けている。共働き夫婦が増え「家事分担は当然」という意識が高まってきてはいるが、夫の家事への係わりは育児に比べるとまだまだ積極的ではないという。その原因を研究している中で「妻にとってはアドバイスのつもりだった指摘が夫にとってはショックで、ナイーブな心が折れてしまうことがある」ことが分かり、それが今回の調査につながった。
「妻の家事ハラ」という表現については「過激な表現とは思いましたが、注目を集める意味もあり」採用したという。ただしネットで指摘されている点についてはいずれも本意ではなく「誤解を与えてしまうことになり、申し訳なく思っております」と話した。
なお「家事ハラ」という言葉自体は旭化成ホームズが作った言葉ではない。
2013年には和光大学教授でジャーナリストの竹信三恵子氏が自著「家事労働ハラスメント―生きづらさの根にあるもの」で家事労働を無視、軽視、蔑視することを「家事ハラ」として問題提起している。