年間最大100万円までの投資について、株式などの売却益や配当にかかる税金を5年間免除する「少額投資非課税制度(NISA)」が2014年1月にスタートして半年がたった。
NISAの投資総額は1兆円を超え、着実に伸びているものの、実際に投資をしているのは大半が高齢者だ。制度の大きな狙いである若者や初心者の投資促進は成果が出ていない。株価上昇で政権浮揚を図りたい政府からは、枠の拡大など制度見直しに前のめりの声が次々に上がっている。
口座開設者のうち約6割は60歳以上
金融庁は制度開始からほぼ半年がたった6月下旬、NISAの利用状況を公表。これによると、3月末時点の口座開設数は約650万口座となり、1月の開始時点から約4割も増えた。投資総額も1兆34億円となり、この数字を見る限りはまずまずの滑り出しといえる。
だが、口座開設者のうち約6割は60歳以上。実際の投資総額に占める60歳以上の割合も65%に上り、30代は6.5%、20代は2.0%に過ぎない。
そもそも、証券会社で口座を開設した人のうち、投資未経験者は1割程度にとどまっている。NISA導入の目的の一つは、高齢者に偏っている個人投資家のすそ野を若年層や初心者にも広げて株式市場を活性化するとともに、若者の長期の資産形成を後押しすることだったが、その狙いは完全に外れた形だ。
口座開設が一巡し、今後は大きな伸びが期待できない中、証券各社は初心者向けのセミナーや商品構成に力を入れ、テレビCMも展開するなど、投資未経験者の取り込みに必死だ。しかし、年初に1万6000円台を付けていた日経平均株価が足元では1万5000円台と勢いを欠いていることもあり、各社は「若者や初心者を獲得するための『切り札』はなかなか見当たらない」(大手証券幹部)と頭を悩ませる。
年100万円の非課税枠を240万円へ引き上げ検討
こうした状況から、金融業界ではNISAの使い勝手の悪さに対する批判が高まりつつある。「普及しないのは制度設計にも問題がある」(別の証券会社幹部)というわけだ。証券業界では、5年限定の投資期間の恒久化や年間100万円の非課税枠の引き上げ、英国のように未成年もNISAの対象に加えることなどを求める声が強い。
閣僚からは、業界の要望に呼応するように制度改善に前向きな発言が相次いでいる。麻生太郎財務相兼金融担当相は7月1日の閣議後の記者会見で、年間100万円の非課税枠を240万円へ引き上げることを検討する考えを示した。菅義偉官房長官も7月11日の記者会見で「個人金融資産を有効活用し、日本経済再生を進めるべきだ。非課税枠の倍増ができないか検討したい」と述べた。
「日本では金融教育が貧弱」との指摘
金融庁内では「実際に投資に使われている口座はまだ3割程度しかなく、業界はもっと努力すべきだ。制度拡充は時期尚早」(幹部)との声が多い。しかし、発足当初から「内閣支持率に直結する」として株価を重視してきた安倍晋三政権だけに、NISA拡充に並々ならぬ意欲を示している。
ただ、制度が拡充されれば若者や初心者の投資が増えるとは限らない。「日本では金融教育が貧弱」との専門家の指摘は多い。非正規雇用の増加などで、若者が投資に回すだけの収入を得られていないという問題もある。「貯蓄から投資へ」の流れを加速させるには、制度拡充だけでなく、政権が腰を据えて取り組むべき課題が山積している。