米大リーグ・ヤンキースの田中将大投手は2014年7月9日(日本時間10日)、右肘炎症のため、15日間の故障者リスト入りした。チームドクターの診察を受けた結果、右肘じん帯の小さな部分断裂が判明、6週間の保存療法とリハビリで復帰を目指す。報道によると症状が改善しない場合、通称「トミー・ジョン手術」と呼ばれるじん帯修復手術を受ける可能性もあるという。
故障の理由は未だ特定されていないものの、米メディアは「スプリットの多投」にその原因を求めているようだ。朝日新聞や読売新聞など日本の大手メディアも同じ見方で、「スプリット」という球種ににわかに注目が集まっている。
スプリットは「両刃の剣」
田中投手の「決め球」として知られるスプリットボール(スプリット・フィンガード・ファストボール)は現代の魔球と言われ、これまで多くの打者を苦しめてきた。
フォークボールの一種で、ボールを掴む際、縫い目が人差し指と中指の内側に触れる程度に手を開く。フォークよりも握りが浅いため、落ちる角度は緩いものの、その分速いボールを投げられる。田中以外にもレッドソックスの上原浩治投手やマリナーズの岩隈久志投手、同じヤンキースの黒田博樹投手などスプリットの使い手は多い。プロ野球でも広島東洋カープの前田健太投手が「新たな武器」として今年から習得を始め、話題になっていた。
しかし、そんなスプリットは現在、大リーグの選手にとって「故障のタネ」となっているそうだ。日本経済新聞の記事(2014年4月6日付)によると大リーグではスプリットの多投は肘に過度のストレスを加えるため、故障につながりやすいという定説があり、今ではほとんど「絶滅種」のような存在となっているという。
かつてメジャーでは、オールスタークラスの投手へと上り詰めるためにスプリットを習得するパターンが多かった。しかし、スプリットを多用していた投手が相次いで故障すると、各球団は投手に使用の制限を促したという。
アメリカ・ロードアイランド州の地元紙「プロビデンスジャーナル」紙は4月15日付の記事で、各球団のエース級投手から「トミー・ジョン」手術を受けなければならないほどの故障者が続出している理由は、スプリットの多投にあると指摘した。ストレートやカーブに比べ、スプリットは投球前の肘をねじる動きが大きい。しかし、ストライクゾーンの狭まりなどの理由からスプリットを使う投手は増えているという。
「絶滅種」なのか「盛んに使われている」のか、各紙の報道によって違いはあるもののケガをしやすい球種であることは間違いないようだ。
2か月前から予言されていた「ケガ」
「若い投手に対してはカーブ、もしくはチェンジアップを投げるように薦めている。チェンジアップは、スプリットのように(縦の変化)使えるけれど、グリップは違うので、それほど、肘や前腕部への負担は掛からない。私は個人的に、彼が25歳という年齢で、あれだけスプリットを投げて、この先、どうなるのか、興味を持っている」
これは5月1日、田中投手との初対決を直前に控えた、レイズのマドン監督の言葉だ。日本のネットメディア「THE PAGE」の直撃インタビューに答えたものだ。
マドン監督はマイナーでの経験を踏まえた上で「スプリットを多投することには常に懸念を持っている。若い選手が多くのスプリットを投げると、肘や前腕に負担が掛かって故障に繋がるケースがある」と話している。不幸なことに、この予言が的中してしまった格好だ。
田中投手の突然の故障を受けて、日本の大手紙も踏み込んだ記事を載せた。12日の朝日新聞は、「田中のスプリット比率は、日本で約12%、それが大リーグで25%。中4日の登板間隔も負担。日本時代の2倍以上の球数を投げているような感覚だったのだろう」という米国の専門家の意見を紹介している。
読売新聞では、元巨人の鹿取義隆・読売新聞スポーツアドバイザーが「メジャーの試合球は日本より大きく重いため、負担も大きくなる」とコメントしている。「復帰後は使う球種の割合を変えるなどメジャーに合わせた対策が必要だろう」とも語り、投手生命を長持ちさせるために「スプリット減らし」をほのめかしている。
田中投手の故障に関しネットでは「やっぱりスプリットはあかんな」という声や、「そういや黒田もスプリットめっちゃ投げるじゃんか。で、ずーっと安定して成績残してきてるじゃん」という意見や、「マーさんの肘はスプリットじゃなくて中4日の(登板日程の)せいじゃねーの」という反論などさまざまな反応が出ている。
「トミー・ジョン」手術を受けることになれば復帰に1年以上かかる可能性もある。田中投手は果たしてマウンドに帰って来られるのだろうか。そのとき、これまでと同じようにスプリットを使うことができるのだろうか。