ヤンキースのエース田中将大は2014年7月10日、右ひじの靱帯部分断裂のため治療に専念することになった。今後の精密検査によっては手術もありうるというから重症である。
いったい何があったのか。
精密検査によっては靱帯の移植手術も
「ひじ痛のため戦列を離れる」
ヤンキースのジラルディ監督は当初、軽症と考えていたようで、15日間の故障者リスト(DL)に入れる、と発表した。それが9日のことである。
田中は8日のインディアンス戦に先発、7回途中で降板し、5失点で4敗目を喫した。ベンチに下がり、苦痛のためか顔をゆがめた。異常を首脳陣に訴えたのだろう。
球団が取った措置は検査。試合地のクリーブランドから本拠地のニューヨークに戻り、さらにヤンキースのチームドクターが出張しているシアトルに移動して検査を受けた。中西部から東海岸、そして西海岸と動いたのだから、普通の状況ではないことが分かる。ヤンキースはその事態に驚いたのである。
「6週間休む」
球団の新たな発表だ。しかも、その間に行う精密検査によっては、靱帯の移植手術も、とまで付け加えている。
選手間投票で選ばれたオールスター戦の出場は無理で、後半戦もしばらく投げられない、というのが現在の状況だ。
ひじに負担がかかる大リーグ球
推測するに、ひじの違和感は以前からあったのではないか。勝負どころで速球がほとんどなかったし、変化球が圧倒的に多かった。少なくとも昨年、楽天で見せた24連勝のピッチングとは違っていた。おそらく対戦した大リーガーの打者たちも、事前の情報と違うぞ、と思ったのでないか。
田中にすれば、「161億円の投手」の名に恥じない投球を見せなければ、と肝に銘じたはずである。だからひじに異常を感じてもすぐ口に出すことはエースのプライドが許さなかったのではないか。
そのプレッシャーと闘いながら12勝という最高の成績を挙げていたのだから、たいしたものである。その代償が「投げられなくなったひじ」とすれば、まさに好事魔多しとしかいいようがない。
今回の田中のアクシデントについて、ある日本の監督経験者は語る。
「大リーグで使用するボールは日本のそれとは異なる。とくに、すべる感じで、指先をしっかり持たないとコントロールに影響する。きつく持って投げるからひじに負担がかかる。日本のボールではありえないのだが、それに順応しなければ勝てない」
「それにスプリットなど落ちるボールの多投も原因のうちだろう。フォークボールなど回転させないボールを投げるときも手首を使わないのでひじに負担がかかる。複合的な要素が絡んだのだろう」
手術をするとなれば、来シーズンの登板も不可能となる。田中にとって初めて遭遇したピンチである。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)