ひじに負担がかかる大リーグ球
推測するに、ひじの違和感は以前からあったのではないか。勝負どころで速球がほとんどなかったし、変化球が圧倒的に多かった。少なくとも昨年、楽天で見せた24連勝のピッチングとは違っていた。おそらく対戦した大リーガーの打者たちも、事前の情報と違うぞ、と思ったのでないか。
田中にすれば、「161億円の投手」の名に恥じない投球を見せなければ、と肝に銘じたはずである。だからひじに異常を感じてもすぐ口に出すことはエースのプライドが許さなかったのではないか。
そのプレッシャーと闘いながら12勝という最高の成績を挙げていたのだから、たいしたものである。その代償が「投げられなくなったひじ」とすれば、まさに好事魔多しとしかいいようがない。
今回の田中のアクシデントについて、ある日本の監督経験者は語る。
「大リーグで使用するボールは日本のそれとは異なる。とくに、すべる感じで、指先をしっかり持たないとコントロールに影響する。きつく持って投げるからひじに負担がかかる。日本のボールではありえないのだが、それに順応しなければ勝てない」
「それにスプリットなど落ちるボールの多投も原因のうちだろう。フォークボールなど回転させないボールを投げるときも手首を使わないのでひじに負担がかかる。複合的な要素が絡んだのだろう」
手術をするとなれば、来シーズンの登板も不可能となる。田中にとって初めて遭遇したピンチである。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)