カネボウ化粧品は、自社の美白化粧品で肌がまだらに白くなる「白斑」被害が出た問題で、治療が長引きそうな被害者を対象に休業補償などで1人数十万円の一時金を支払うことを決めた。
症状が重く治療の長期化が想定される被害者には後遺症慰謝料に相当する補償も支払う。カネボウが白斑問題で商品の自主回収を公表してから2014年7月4日で1年。しかし、被害を訴える女性たちが全国で訴訟を起こすなど混乱は引き続いており、収拾のめどは立っていない。
被害者は全国で約1万9000人に上る?
白斑問題は、美白成分「ロドデノール」を配合した化粧品が原因とされる。同社は2008年9月、この化粧品を発売、2011年10月に白斑の被害報告が初めて寄せられた。しかし、この時点では「病気による症状」と判断、商品回収などの適切な対応を取らず、問題が長期間放置されることになった。2013年5月に被害者を診察した医師から症例報告があったのを機にようやく会社として問題を把握、同7月に自主回収を発表した。被害者は全国で約1万9000人に上るとされる。
自主回収以降、カネボウは親会社の花王と協力し、安全・安心のための対策や被害者救済に取り組んできた。発売前の新製品に関してはモニター試験をこれまでより長期間、多人数で行うなどの試験を強化、花王と一体化となってさまざまな再発防止策に取り組んだ。
被害者に対しては、通院で会社などを休むことになり、収入が減った分を償う休業補償などを行うことを13年秋まで決定。支払いは被害者の症状が回復した後に行うとしていたが、14年6月には精神的苦痛に対する慰謝料と休業補償などは、被害者の希望があれば回復する前に支払うと決めた。
被害者の一部は訴訟を起こす
また、症状が重く、完治までに時間がかかりそうな被害者には、交通事故などで後遺症が生じた際に裁判で用いられる基準に基づき、後遺症慰謝料を支払うことも決定。「被害者の負担を軽減し、治療に専念してもらうため」(カネボウ化粧品)としている。対象者は約4000人に上る見通しだ。
ただ、被害者の一部は全国で訴訟を起こしており、混乱は収拾できていない。そもそも白斑が発祥する仕組みは解明されておらず、裁判自体が簡単ではないのも現実だ。
一方、被害者への治療費の支払いなどが花王やカネボウの経営に与える影響は小さくない。花王の2013年12月期の化粧品事業は1.1%の減収で、カネボウの買い控えなどによる減少分は120億円前後に膨らんだという。今後は後遺症慰謝料の支払いも莫大な額に上るとみられ、花王の利益の多くが吹き飛ぶ可能性もある。
さらに痛手なのは、業界では売れ筋であり、市場が拡大している美白化粧品市場に大きく踏み込めないことだ。美白化粧品市場は年間2000億円規模に上るとされており、化粧品各社が最も重視している対象だ。カネボウは白斑問題の大きさを考え、当面は新たな美白化粧品を発売しない方針を固めており、痛手は大きい。