物価値上がりで実質賃金大幅に減っている! 「悪いインフレ」に陥っている可能性

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   厚生労働省の「毎月勤労統計調査」(速報値)によると、2014年5月の所定内給与は2年2か月ぶりに上昇に転じた。残業代も増えて、現金給与総額は0.8%増の26万9470円。3か月連続でプラスだ。

   とはいえ、そんな景気のよさを実感している人はどのくらいいるのだろうか――。

実質賃金11か月連続マイナス

なんとなく景気はよくなっている感じがするが、じつは…
なんとなく景気はよくなっている感じがするが、じつは…

   日本銀行が全国の4000人に聞いた2014年6月の「生活意識に関するアンケート調査」(有効回答率56.9%、5月9日~6月5日調査)によると、1年前と比べて景況感が「悪くなった」という回答が、前回の調査(3月)と比べて3.9ポイント上昇し、23.5%になった。「良くなった」は微増の13.5%で、「良くなった」から「悪くなった」を引いた判断指数(DI)はマイナス10と、前回より悪化した。

   暮らし向きは、43.7%が「ゆとりがなくなってきた」と回答。前回調査の3月(38.1%)から上昇した。

   消費増税や、エネルギーコストや輸入価格の上昇などの影響で物価が上昇。家計の負担が増したとみられる。ゆとりがなくなった理由に、「物価が上がったから」と答えた人は61.9%にのぼり、リーマン・ショック直後にあたる2008年12月の調査以来の高水準となった。

   個人の景況感が悪化している原因は、賃金の上昇を物価の上昇が上回っているため、との見方が支配的だ。

   たしかに、賃金は上昇している。今春は多くの企業が賃上げに踏み切り、連合によると、春闘での賃金の平均引き上げ率は前年比0.36ポイント増の2.07%と、1999年(2.10%)以来15年ぶりに2%を超えた。

   基本給にあたる所定内給与は5月に、前年同月から0.2%増えて24万1739円となった。大手企業をはじめ、基本給を底上げするベースアップを実施した影響が出始めたことや、景気回復によって残業代や手当が増えた。また、企業が正社員の採用を増やしたこともプラスに働いた。

   ところが、現金給与総額を物価の上昇を差し引いた実質ベースでみると、前年比3.6%減と、消費増税直後の4月の落ち込み幅(3.4%)を上回った。じつに11か月も連続で前年実績を下回っている。

   しかも、3.6%の落ち込み幅はリーマン・ショックの影響でボーナスが減った2009年12月(4.3%減)以来の大きさ。エネルギーコストなどの上昇に、消費税率の引き上げが追い討ちをかけたのは明らかなようだ。

「求人難」倒産、5月だけで3件が発生

   物価上昇の要因は、エネルギーコストや輸入価格の上昇だけではない。最近は、企業の「人手不足」による人件費の上昇が、モノの販売価格にハネ返りつつある。

   日銀が2014年7月2日に発表した企業短期経済観測調査(短観)の業種別計数によると、販売価格判断指数(DI)は小売業でプラス10、宿泊・飲食サービスはプラス11と2008年6月以来の高水準で、建設はプラス4と1991年12月以来の高い水準だった。

   小売りやサービス業では人手不足から、賃金を上げて従業員を確保する動きがあり、それが販売価格の転嫁につながっているとされる。

   ただ、人手不足は倒産にまで進展。東京商工リサーチによると、「人手不足」関連倒産は2014年1~5月の累計で114件あった。企業の業績が拡大する一方で、「職人不足による工事の遅滞や中止」、「製造現場での従業員不足による生産の遅れ」、「外食産業での営業時間短縮や店舗閉鎖」など幅広い業種に広がり、とうとう「求人難」による倒産も出てきた。

   求人難による倒産は1~5月に5件、そのうち3件が5月に発生。建設業と運輸業、飲食業が倒産した。

   企業倒産の増加は、景気を冷やす。同社は、「数はそんなにないのですが、最近、ジワジワと増えてきました。たとえば、ある建設業は受注があるにもかかわらず、また賃金を上げてもなお職人が集まらなかったケースです」と話し、今後増える可能性があるという。

   国際金融アナリストの小田切尚登氏は、「政府や日銀が当初イメージしていた、賃金が上がって欲しいモノが買えて、それにより値段が上がる『良いインフレ』ではなく、エネルギーコストや輸入価格の上昇をきっかけとする、いわゆる『悪いインフレ』に陥っているのが現状といえます」と、指摘する。

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