高額の補償金設定すれば「わざと解雇」される人も?
ただ、雇用側が本当に解雇を頻発するようになるかと言えば「簡単ではないでしょう」と野崎氏はみる。
例えば政府から支給される助成金の一部は、会社都合による解雇が行われると受け取れなくなる「ペナルティー」がある。また複数の訴訟を抱えれば、経営体力の乏しい中小企業は負担が小さくないはずだ。社員が次から次に「クビ」となれば、残った社員の士気や会社に対する信頼性は低下するだろうし、ひいてはそれが業績に悪影響を与えかねない。
一方で「厳しい解雇法制」とされる現状も、課題はある。労働者が解雇を巡る訴えを起こし、解決金を手にしても十分とは言えなさそうなのだ。中央大学商学部の江口匡太教授は、同大学が読売新聞電子版の中で運営するサイト「教育×ChuoOnline」2013年6月17日付の記事中、解決金の相場がおよそ「紛争期間×0.5か月分」だと調査の結果判明したと説明した。これによると、月給50万円の人が1年争って300万円を手にする計算となるが、「弁護士費や再就職したら得られたはずの所得などを考慮すればいくらも残らない金額」という。そもそも訴えられず「泣き寝入り」の人も多く、金銭解雇が認められればこうした人たちが補償を求められるようになると指摘した。
仮に金銭解雇が実現した場合、現実的に考えて最大の焦点となるのがその金額だろうと野崎氏。労働者側に手厚い補償金額が設定されて高い金額になれば、むやみな解雇の歯止めになり得るだろう。しかし、逆にこんな懸念が生じる。労働者側が高額の補償金を目当てにわざと解雇されるような振る舞いをしないとは言い切れない、というわけだ。
安易に金銭解雇を導入すれば、解雇権の濫用の恐れがぬぐいきれず、労働者側に一方的に有利なシステムをつくると今度は悪用されるかもしれない。いずれにしろ「解決は難しいと思います」と野崎氏は話した。