東京都議会での「セクハラヤジ問題」は、複数のヤジが出たとされながらも名乗り出たひとり以外は発言者が不明のまま、幕引きかと思われた。ところが、当日取材していた朝日新聞の記者が一連のヤジを録音しており、音声を分析したところ発言内容の詳細が分かってきたという。
妊婦支援の取り組みを訴えるみんなの党Tokyo所属の塩村文夏都議に向けて「自分が産んでから」、さらに「不妊の原因は女性だけでなく」との説明に「やる気があればできる」。こうしたヤジは、誰が飛ばしたのだろうか。
「がんばれよ」「動揺しちゃったじゃねえか」は民主都議だった
朝日新聞の記者の録音は、2014年6月29日放送の「報道ステーションSUNDAY」(テレビ朝日系)が詳しく取り上げた。録音データを日本音響研究所に依頼して音声分析したところ、すでに名乗り出た自民党・鈴木章浩都議による「早く結婚した方がいいんじゃないか」というヤジの直後に、
「自分が産んでから」
「がんばれよ」
という声が飛んでいたのだ。鈴木都議とは声色が違うように聞こえる。
ほかにもある。塩村都議が発言を続けている途中に「動揺しちゃったじゃねえか」と割って入り、妊娠や出産の悩みを抱える女性に対する具体的な取り組みを要請したときには「それは先生の努力次第」との声が聞こえた。極めつけは、「不妊の原因は女性だけではなく」との塩村都議の説明に対して「やる気があればできる」という声だ。不妊に悩む女性に「やる気」の有無を問うような、不適切な発言とも受け取れる。
このうち「がんばれよ」「動揺しちゃったじゃねえか」のふたつは、民主党の山下太郎都議が「自分の発言」と認めた。塩村都議が一般質問の最中にヤジを受けて動揺しているようだったので、激励の意味で「がんばれよ」と発言し、もうひとつはヤジを飛ばした自民側を非難するためのものだったという。「報道ステーションSUNDAY」の中で、「善意で言った」「(塩村都議を)かわいそうだと思って発言した」と説明した。塩村都議は、6月29日付の朝日新聞朝刊で「がんばれは聞こえたが、特に悪意を感じなかった」と話したという。
石破幹事長は「政治家としての潔さ」求める
一方で塩村都議は、朝日の取材に対して「他のひどいヤジについて名乗り出て欲しい」と強調している。
自民党の石破茂幹事長は6月28日、ヤジ問題について「政治家としての潔さが必要。本人の自発的なものが政治家として求められることじゃないか」と報道陣に語った。鈴木都議同様に、自ら名乗り出るよう促したとみられる。
これまで「産めないのか」というヤジがあったとも言われたが、番組で公開された録音内容を聞く限りでは確認できなかった。半面、「自分が産んでから」や、不妊について「やる気があればできる」という発言があったのは明らかになった。
都議会では6月25日、鈴木都議以外のヤジの発言者を特定する案が否決され、閉会した。いったんは「灰色決着」したかに見えたこの問題だが、火種はくすぶっている。毎日新聞が6月27、28日に実施した全国世論調査で、名乗り出た都議以外の発言者についても調査すべきだと思うと答えた人が74%となり、「思わない」の17%を大きく上回ったという。 録音データが世にさらされ、発言内容が具体的に判明したことで注目はさらに高まりそうだ。