伝統の自動車耐久レース「ルマン24時間」が2014年もフランスで6月14~15日に開かれた。近年はハイブリッド車(HV)の技術を競う場となっており、プリウスをはじめとするHVの累計世界販売台数が600万台を超えるトヨタ自動車は、優勝を目指したが3位に終わった。
5連覇したドイツのアウディの壁を突き崩すことは今年もできなかったが、「HVの第一人者」として来年に向けて動き出している。
2012年からHVクラス
モータースポーツの世界では、「世界耐久選手権シリーズ(WEC)」が展開されており、ルマンはその今季第3戦でもあり、格としては最高峰のレース。何しろルマンの初開催は1923年で、F1のモナコグランプリと双璧をなす伝統の一戦だ。
ルマンはパリの南西約200キロ、フランス中部の小都市の地名。この街で一周13キロ余りの一般道を活用したコースを24時間、延々と周回し続けるレースだ。様々なランクがあり、最上位カテゴリーではこれまでポルシェ、アウディ、フェラーリ、ジャガー、ベントレーといった欧州勢が優勝を重ねており、日本勢ではわずかにマツダが1991年に優勝したのみだ。
自動車耐久レースはただ速いだけでは優勝できない。主催者が常にメーカーに最新技術の粋を求めるためだ。WECは2012年からHVクラスを設け、ルマンは「LMP1」と呼ばれる最上位カテゴリーの条件をHVとした。これを見て、1990年代にルマン参戦をやめていたトヨタは、すぐさま2012年からWEC及びルマンに参戦している。いち早くHVプリウスを世界で発売し、HVの盟主を自認するメーカーとして、最新技術を披露する意味でも絶好の機会と判断した。レース内容も充実しており、2013年のルマンでは参加した2台が2位と4位に入り、あと一歩のところまで迫っている。
カイゼンのカギは蓄電装置
トヨタの今季のマシンは「TS040」。今季のレース規則改正を受け、前輪用と後輪用のモーターを搭載する4輪駆動車とした。今季レースは燃費性能の20~30%の向上も求められているが、これはトヨタの得意分野でもあり、燃焼効率の良いエンジンを据え付けた。燃費向上を実現したうえでパワーアップも図り、HVシステムの最大出力は1000馬力に達した。
カイゼンのカギは蓄電装置。従来の電池ではなく短時間での大量の充放電に適した「キャパシタ」と呼ばれる部材を活用した。これにより、急減速と急加速を繰り返すレースで発生する摩擦エネルギーを、ロスなく電気として生かすことができるようになったという。
実際、今季のトヨタ車は好調で、英国、ベルギーで開かれた2戦を連勝。「本番」のルマンの予選でも、参戦2台のうち中嶋一貴(父は元F1ドライバーの中嶋悟氏)らが運転したマシンはトップで「ポールポジション」を獲得した。
しかし、本番には魔物が潜んでいた。中嶋らの「7号車」はスタートから約14時間にわたってほぼ首位を維持していたが、突然、電気系統のトラブルが発生し結局は無念のリタイア。中嶋は「これがルマンであり、挑戦しがいがある。また挑戦する」と述べた。
もう1台はスタート90分後の豪雨による多重クラッシュに巻き込まれ、50分ものピット作業を強いられたが驚異的な巻き返しで3位に食い込んだ。チーム代表の木下美明氏は「この経験を糧に我々はより強くなって帰ってくる」と語った。アウディの強固な壁を崩せるか。来年に向け、トヨタの再挑戦は既に始まっている。