米アマゾン・ドット・コムが初のスマートフォン「ファイア」を発表した。
スマホ市場は米アップルと韓国サムスン電子が激しくしのぎを削っているが、アマゾンはスマホとネット通販を直結させてサービス拡大を図り、先行する2社に割って入る考えだ。
「ファイアフライ」と呼ばれる新機能
ファイアは画面が4.7インチと現在発売されているiPhone5より大きいが、サムスンのギャラクシーS5よりは小さく、専用のメガネなしでも3D画像を見られる。米国では通信大手AT&Tが販売し、端末価格は2年契約で記憶容量32ギガバイトだと199ドル(約2万円)で7月25日から出荷される。今のところ、日本での発売は未定だ。
アマゾンのジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)は発表の際、「ファイアはアマゾンのすべてを手のひらに収めた」とアピールした。それを実現するのに搭載され、ファイア最大の特徴でもあるのが「ファイアフライ」と呼ばれる機能だ。
内蔵カメラを身の回りの商品に向けてボタンを押すと、どの商品かを自動的に判断し、画面にその商品の価格など商品情報が表示され、取り扱いがあればアマゾンのサイトで注文できる。テレビで流れる映画や音楽などのコンテンツも認識し、サイトからダウンロードが可能だ。認識できるコンテンツ数は1億点にものぼるだけに、「スマホを入り口にし、コンテンツサービスで消費者を囲い込むのが狙いだ」(アナリスト)という。
「ショールーミング」が加速
iPhoneでもアプリや音楽などデジタルコンテンツを販売しているし、他社のスマホでも検索した商品をアマゾンのサイトから注文できる。しかし、アマゾンの強みは取り扱いがデジタルコンテンツだけでなく、食品や日用品など多岐にわたっており、ファイアフライ機能を使えば検索の手間が省けること。アップルとサムスンが二分するスマホ市場への新規参入は厳しい状況のはずだが、業界では「アマゾンはスマホ販売でわたりあうのではなく、サービス拡大が基本戦略」との見方が広がっている。
一方、米国でファイアに注目するのは携帯端末メーカーだけではない。アマゾンの登場によって消費者が店頭とサイトの価格を確認した上で、注文はネットでする「ショールーミング」という消費行動が世界中で起きている。ファイアフライの市場投入が、まさにこの流れを加速する可能性があり、小売業界の危機感は高まっている。
日本国内に目を転じれば、昨年はiPhoneにシェアを奪われ携帯事業から撤退する日本メーカーが相次いだ。ファイア日本で投入されれば、残ったメーカーはシェアがさらに奪われる可能性が高く、「社内の事業見直し機運が高まるかもしれない」と、アマゾンの動向を注視している。