インターネット上に残された過去の個人情報で、自身に不利益をもたらす内容について削除を求める「忘れられる権利」に関して、米グーグルが司法判断に沿って、検索結果として表示されるリンクの一部削除を開始した。
発端は、既に解決済みだった過去の出来事を巡る裁判だった。しかし、重大な犯罪の記録も「忘れられる権利」の対象となれば、消去されることで利用者の「知る権利」を侵害して逆に不利益を与えかねず、課題は多い。
「欧州情報保護法」に基づく措置で日本や米国は範囲外
グーグルの対応は、欧州連合(EU)司法裁判所が2014年5月13日に個人の「忘れられる権利」を認める判決を下したことに基づいている。
1998年、あるスペイン人男性が新聞電子版に、自身の過去の社会保険料未払いとその債務回収のために不動産が競売になったと報じられた。その後男性は債務を完済したが記事はネット上に残り、グーグルで男性の名前を検索すると既に解決したはずの当時の新聞報道が表示された。男性は「忘れられる権利」を主張して訴訟を提起。EU司法裁はグーグルに対して、検索結果から男性の過去の情報に関するリンクを削除すべきとの判断を示した。
判決に従ってグーグルは、サイト上に「削除要請フォーム」を開設。氏名やメールアドレス、削除を求めるウェブサイトのURLなどを入力して送信する仕組みだ。ただしこれは「欧州情報保護法」に基づいているため、対象はEU域内に限られ、日本や米国は除外されている。
複数の報道によると、これまでに4万1000件以上の要請が送られたという。グーグル側は、個人情報保護と公衆の知る権利の双方のバランスの観点から削除要請の内容を検討するとしている。
欧米メディアは、グーグルの一部情報削除開始について2014年6月26日に報じた。読者の関心は高いようで、記事には多くのコメントが寄せられているが、見方は分かれた。米ウォールストリートジャーナル電子版には、「正しい判断」「米国にも同じ法律をつくれないか」という賛成派、「(削除の)扉を開いたグーグルは今後、要請が却下されたユーザーからの訴訟を多く抱えるのではないか」という指摘、「過去に医療過誤で患者を死なせた医師が、罪を償ったとしてこの情報が消されたとしよう。自分の子どもが病気で医師を検索した際、この人物が適任だとして検出されたらどうするんだ」と警戒する人もいた。