京都大学の敷地内にある掲示板のいたるところに、おびただしい数のビラが張られているのが2014年6月26日夜に見つかった。ビラには大きく「山極」という文字が描かれ、「投票しないで」となっている。
大学は今、次の総長選考の真っ最中で、このビラは山極壽一(やまぎわ じゅいち)理学研究科教授を総長に選ばないでほしい、と訴えているのだ。「ツイッター」にも同じ内容のつぶやきが多数出ている。ただし、誹謗中傷するものでもなく、京都大学もこのビラの撤去はしないと話している。いったい何が起こったのか。
ツイッターで「山極教授は愛されている」
現総長の松本紘氏が14年9月に任期を終えるため京都大学では後任となる総長の選考が進められている。今回は様々なドタバタ劇があった。まず、「学内民主主義の象徴」といわれていた学内投票を通じての総長選びを廃止しようという動きがあったほか、総長を国際公募する、などといった話が大手新聞各紙に取り上げられた。しかし「大学の自治のためには投票が必要」という意見が根強く、結局はこれまで通りに落ち着くことになる。
京大総長の選任までのプロセスは、まず教職員約5千人による「予備投票」で学内から10人程の候補を選出する。そして選考会議が推薦する学外者を入れて6人に絞り、講師以上の教員による「意向投票」を行う。その結果をふまえ、選考会議によって総長が決められる。現在その6人に残っているのが山極壽一理学研究科教授なのだ。
山極教授は研究者として教育者として、学生や京大職員からの評価が高いらしい。それならば総長に適任だと考えられるのに、「山極教授に投票しないで」と書かれたビラで京大中の掲示板が埋め尽くされてしまった。なぜかといえば、山極教授はニホンザルやゴリラの研究に40年以上取り組んできた「霊長類研究の宝」であり、総長になって研究職を退いてしまったら世界の霊長類学、ひいては京大にとって大きな損失になる、という理由からなのだという。だから総長にはならずにずっと研究に打ち込んでもらいたいし自分たちを指導し続けてもらいたいのだそうだ。
こうした展開にネットでは、
「山極教授愛されてるのねw」
「山極教授カッコイイなぁ。どんだけ信頼置かれてるんやろか」
「山極教授の研究凄すぎるもんな」
などと言った意見がツイッターに出ている。
京大の担当者「今回のビラは不問、撤去はしない」
では誰がこうした大量のビラを撒いたのだろうか。京都大学全学自治会同学会中央執行委員会のホームページを見ると、14年6月26日夜に文学研究科、理学研究科の学生有志の文責によるビラが、吉田南から農学部までの掲示板を埋め尽くすかたちで張り出された、と書かれている。京都大学理学研究科人類進化論研究室の赤いハンコも押してあり、切実さが伝わってくる。
「特定の候補者に投票しない運動がこういう形で出るとは思っていませんでした。悪い人に(総長に)なってほしくない系で宣伝されるかと思っていたのですが・・・」
といった感想も添えられている。
京大ではこうしたビラはどういった扱いになるのだろうか。総長選考選挙を担当する部署に話を聞いてみたところ、
「個人を誹謗中傷したり貶めたりするものでない限りは問題ありません」
ということでビラの撤去などは行わないという。新総長は7月初めにも決定するという。