米国の電気自動車(EV)メーカー、テスラ・モーターズは、保有する全ての特許を公開することを明らかにした。他社が使用するのを認めることでEV開発を加速させるのが狙い。日本でもEV普及に向け、トヨタ自動車を含む国内自動車4メーカーが2014 年5月末にEV充電インフラを整備する新会社を設立。なかなか普及が進まない中、日米メーカーがEVの開発やインフラ整備に向けた動きを活発化させている。
テスラの特許はEV用電池などを中心に数百件あるとされる。イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は6月中旬、「誠意を持って我が社のテクノロジーの使用を望む企業に対し、特許侵害訴訟を提起することはない」として特許を公開する考えを示した。
異業種からの参入も促す
公開に至った理由について、マスクCEOは「以前は、特許は良いものと考えていたが、最近は技術革新を抑制し大企業の地位を守るものになっている」と説明。さらに「真の競争相手は他のEVメーカーではなく、世界中で製造されるガソリン車だ」と指摘した。世界の乗用車販売台数に占めるEVの割合は1%にも達しておらず、テスラは遅々として普及が進まないことに危機感を募らせているようだ。
確かに環境問題への懸念が強まる中、EVは二酸化炭素(CO2)を排出しないなど環境性能の高さが売りだ。しかし、ガソリン車と比較すると電池性能の面などから航続距離が短いのがネックとなっており、車両サイズの大型化も難しいのが実情だ。テスラは特許を公開することで世界中の大手自動車メーカーや部品メーカー、異業種からの参入を促し、弱点克服のための技術革新につなげたいとの狙いがある。オープンソース的な考え方を持ち込むことで業界を拡大させたいというわけだ。
給油所にもっと充電器を
一方、国内でもEV普及を進めようと新たな動きが出ている。
トヨタ、日産自動車、ホンダ、三菱自動車の4社が5月末、EV向け充電インフラ整備会社「日本充電サービス」を設立した。国内では官民挙げてEV普及を目指してきたが現状は乗用車全体の1%未満のシェアに過ぎず、業界には「走行中に充電できる場所が少なく、乗ることそのものへの不安がEV普及を妨げている」との思いが根強い。
政府は充電器設置への補助制度を整えているが、設置数は今年3月までに急速充電器2000基、普通充電器3000基と目標を大きく下回っている。「給油所が3万6000あるのに対し、十分な数とは言えない」(自動車大手幹部)ため、政府補助に加えてメーカー自らが新会社を設立して設置費用を一部負担し、年内に急速4000基、普通8000基の新設を目指すことにした。
日本メーカーには国内普及率を上げることで、EVの開発や低コスト化などにつなげたいとの思惑がある。なぜなら世界一の自動車市場・中国は環境問題の深刻化やガソリン需要の増大懸念からEV市場が急成長すると予測されているためだ。ガソリン車の次を担う次世代自動車でも世界をリードしたい日本メーカーにとって中国の動向は無視できなくなっている。
ただ、ライバルの外国車メーカーもEV開発を進め、積極的に日本市場に投入し始めている。官民でインフラ整備に取り組み、現時点でも充電器の普及数は日本が圧倒的な世界一。海外から見れば普及に向けた素地が最も整っている。それでもEVが「期待したほど売れない」(関係筋)のは、そもそも車としての魅力に欠けているからかもしれない。技術で世界をリードしてきた日本メーカーだけに、EVの弱点をどう克服していくかが注目される。