赤字でも払わなくてはいけない 外形標準課税、中小企業への拡大検討

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   政府は2014年6月24日、経済財政運営の基本方針「骨太の方針」と「新成長戦略」を閣議決定した。最大の焦点だった法人税の実効税率(国税と地方税を合わせ35.64%=東京都の場合)について「数年で20%台まで引き下げることを目指す」という内容で決着した。

   安倍首相はこの日の閣議で、「法人税の構造を成長志向型に変え、雇用を確保し、国民生活の向上につなげたい」と語った。

   「骨太」では、安倍晋三首相の強い意向で慎重論を押し切った格好だが、財源については年末の税制改正論議に先送りされた。特に、有力な財源候補とされる「外形標準課税」については、中小企業から強い反発があり、年末の財源論議は大揉め必至だ。

法人税20%台には3兆円近い財源が必要

   2014年6月13日に開かれた政府の経済財政諮問会議と産業競争力会議で、それぞれ「骨太の方針」と「新成長戦略」の素案が確認された。安倍首相はこの日の会議後、記者団に「法人税は成長志向型に変わる。雇用を確保し、国民生活の向上につなげていきたい」と、満足そうに語った。

   「骨太」素案では、実効税率引き下げの財源について「課税ベース(課税対象)の拡大等による恒久財源」の確保を謳い、財政規律を重視する立場から財源の明確化を求める自民党税制調査会や財務省の主張を反映させる一方、「アベノミクスの効果により日本経済がデフレを脱却し構造的に改善しつつあることを含め」検討する方針も盛り込み、甘利明経済再生担当相らが主張する景気回復による税収の上振れ分を減税財源に充てる可能性も示し、両陣営の主張を折衷した形でひとまず落ち着いた。

   法人税率1%の引き下げは約4700億円の税収減になり、20%台にするには5~6%分、3兆円近い財源が必要になる計算だ。年末の税制改正論議では、ある程度の税収増加分は織り込むにしても、相当程度の恒久財源を確保することになるとみられる。

賃金総額などに応じて課税

   そこで考えられる課税ベースの拡大とは、各種の減税措置の見直し。「広く、薄く負担」などとも言われ、有力候補が地方税の外形標準課税だ。通常の法人税(地方の法人事業税も含む)は、利益に課税されるので、黒字企業のみ納めるが、現在、企業の7割が赤字なので、3割の黒字企業だけが法人税を負担していることになる。これに対して外形標準課税は黒字・赤字にかかわらず賃金総額などに応じて課税するもので、法人事業税の一部で導入されている。「赤字企業でも例えば道路などのインフラの恩恵は受けているから、相応の税負担をすべきだ」(財務省筋)という理屈だが、中小企業への配慮から、現在は資本金1億円超の企業に対象を限っている。政府税制調査会の法人課税ディスカッショングループ(DG)は6月25日、実効税率引き下げの財源として、外形標準課税拡大を明記し、税率引き上げ、対象を中小企業に広げることなどを盛り込んだ改革案を確認、27日の総会で正式決定する見通し。5月、実効税率引き下げの財源として、外形標準課税拡大の方向を示し、税率引き上げ、対象の中小企業への拡大などを検討。自民党税調も、同様の方向を示し、地方財政審議会(総務相の諮問機関)も外形標準課税を広げるべきだとする改革案を発表している。

中小企業関係4団体は「断固反対」の立場を表明

   だが、中小企業や赤字法人は負担増になるだけに、早くも強い反発が巻き起こっている。日本商工会議所、全国商工会連合会、全国中小企業団体中央会、全国商店街振興組合連合会の中小企業関係4団体は外形標準課税の適用範囲を中小企業に広げる議論に対して、「赤字法人175万社への影響が甚大」として「断固反対」の立場を表明した。

   特に、政府税調法人課税DGの大田弘子座長らの発言も、中小企業関係者の反発を招いている。大田氏は外形標準課税を含む中小企業への各種課税軽減措置について「弱い企業を弱いまま守るのではなく、成長を支えるという観点から検討する」(毎日新聞5月9日朝刊)、「産業の新陳代謝が起き、収益力が高い企業が入ってくるように、旧来型の産業に有利な仕組みを変えるべきだ」(朝日新聞4月25日朝刊)と主張。政府税調特別委員の冨山和彦・経営共創基盤最高経営責任者も外形標準課税強化が「生産性の低い企業に退場を促す効果があり、産業の新陳代謝につながる」と言い切っている(日経新聞6月18日朝刊)。こうした非効率な中小企業淘汰論は競争重視の新自由主義に共通するものだが、「資金力、技術、親企業との取引条件や力関係など、大企業に比べて不利な立場に置かれ、また赤字でも、地域で雇用を必死に守っている中小企業が多いことを理解しない机上の空論」(中小企業団体幹部)と、小泉内閣の構造改革の時代から中小企業側からの批判が強く、今後の外形標準課税を巡る議論でも、論点になりそうだ。

企業が雇用を増やせば増やすほど増税に

   この問題について、アベノミクスとの矛盾を指摘する声もある。法人税率引き下げには、企業の負担を減らした分を賃上げや雇用増などで労働者に還元させ、成長を持続させようという狙いがある。しかし、外形標準課税は従業員への給与総額が課税対象になるため、企業が雇用を増やせば増やすほど増税になり、雇用拡大や賃上げを抑えるというマイナス効果があるというわけだ。

   14年末は、15年10月に消費税率を予定通り10%に引き上げるかどうかを判断する時期でもあり、税制改正論議と重なる。4月の消費税8%への引き上げで、消費者の負担増はもちろん、中小企業でも駆け込み需要の反動による売り上げ減や仕入れ金額の高騰などの影響を6割以上が受けているとの調査結果(中小企業家同友会全国協議会5月調査)もあり、消費税増税・外形標準課税がセットで「庶民や中小企業に増税しながら、黒字の大企業に減税するのか」との批判が起きる可能性もある。

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