製薬国内最大手、武田薬品工業が英製薬大手出身でフランス人のクリストフ・ウェバー最高執行責任者(COO)の社長就任問題で揺れている。2014年6月27日の株主総会に向け、株主である創業家やOBの一部がウェバー氏の社長就任に反対する質問状を提出しているのだ。
社長人事が覆る可能性は低いが、武田薬品は高血圧治療薬の不透明な臨床研究が社会問題化している。同社初の外国人社長となるウェバー氏の舵取りは難しさを増しそうだ。
すでに社内取締役6人のうち2人が外国人
ウェバー氏は英グラクソ・スミスクラインで20年超勤務し、アジア太平洋担当上級副社長などを歴任。武田薬品の長谷川閑史(やすちか)社長が自らヘッドハンティングし、今年4月1日付で武田薬品のCOOに就任、27日の株主総会を経て社長に就く予定だ。
質問状は、そんなウェバー氏が武田薬品の社長に就任することは「外資の乗っ取り」だと指摘。「財務と研究開発を外国人に任せることは決して許されない」とし、海外への技術流出の懸念を強く訴えているというから、穏やかではない。
ウェバー氏を招聘した長谷川氏は、創業家出身の武田国男氏から2003年6月、社長を引き継いだ。製薬の世界市場では激しい競争が展開されており、長谷川氏は武田薬品の生き残りをかけ、積極的なグローバル戦略を展開。海外からの人材登用も強力に進め、現在、社内取締役6人のうち2人が外国人であるほか、コーポレート・オフィサー(執行役員)11人のうちウェバー氏を含め7人が外国人だ。外国人社長の誕生は長谷川戦略の「当然の帰結」ともいえる。
ウェバー氏の社長就任に異議を唱える質問状は、こうした長谷川氏のグローバル戦略に待ったをかけようというもの。ただ、背景には「単なる外国人アレルギーとはいえない、社内の根強い反発がある」(製薬業界関係者)とされる。
ブロプレス疑惑の処理をどうするか
長谷川社長就任以降、現場では混乱が少なくない、との声がある。外部から採用された外国人が上司に就き、いたたまれなくなった生え抜き社員が辞めるケースが出ているというのだ。「優秀な研究者の流出が続けば、武田薬品の基盤自体を壊しかねない」(同)との見方もある。
ウェバー氏は社長に就任後、こうした社内外の混乱をうまく収めねばならない。さらにどんな社員も認める成長に向けた道筋を示すことが必要だ。創業230年という老舗企業だけに、経営の手綱さばきも一筋縄ではいかない。
折しもウェバー社長就任を前に、武田薬品には大問題が浮上している。降圧剤カンデサルタン(商品名ブロプレス)の臨床試験に関する疑惑だ。同社は6月20日、社内調査結果を公表し、試験の企画段階から会社が全面的に関与し、有利な結果を導こうとしていた事実を明らかにした。この問題での信頼回復も含め、ウェバー氏に課せられた責務は重い。