政府は農業改革の一環として、全国約700の農協(単協)の司令塔である全国農業協同組合中央会(JA全中)を新たな組織に移行させ、単協に対する経営監査などの権限の大幅縮小に取り組む方針を打ち出した。
首相の諮問機関、規制改革会議が自民党との調整を経て固めた答申を2014年6月13日に提出したことを受けて、来年の通常国会に農協法改正案などの関連法案を提出する見通しだ。
JAは「規制改革会議案」つぶしに動くが・・
規制改革会議の最終答申は、JA全中が単協の自由な経営を制約しないように「あり方を抜本的に見直す」と明記。農産物や資材の販売を一手に手がける全国農業協同組合連合会(JA全農)は、経済界との連携強化に向けて「株式会社化を前向きに検討することを促す」と明記した。
5月22日に同会議の農業改革作業部会が発表した案には、JA全中を「廃止」、JA全農を「株式会社に転換」とあり、JA全中やその意向を受けた自民党農林族議員は強く反発。規制改革会議は自民党案のとりまとめを待ち、概ねその内容に沿って最終答申の表現は緩めたが、これまでアンタッチャブルとみられた農協改革にあっさり言及しているなど、かつてでは考えられないこと、との評価が多い。
ここに至る過程を見ると、かつて道路族、郵政族などと並び「武闘派集団」とみられた農林系議員の弱体化を映し、安倍政権誕生後の「政高党低」を象徴する光景が際立った。
規制改革会議の作業部会案に対しては当初、JA中央会を司令塔とする生産調整(減反)の推進と農産物や資材取引のグループ内集中によって高価格を維持してきた農政に抜本的な改革を迫る内容として新聞などが大きく報じた。
JA側は素早く反応。JA全中は即座に「農業の現場をまったく踏まえていない改革案で、組織の分断を狙っている」として、万歳章会長が翌日、石破茂幹事長ら自民党幹部を回るとともに、全国の農協職員を動員して選挙区ごとに自民党議員に「規制改革会議案」つぶしを働きかける徹底ぶりだった。
自民農水族議員も腰砕け?
普通は、これを受けて自民党農水族議員が集まる関係部会は大荒れになるところ。だが、今回はそうはならなかった。
党農協改革プロジェクトチーム(PT)座長の森山裕総務会長代理は報道陣に「官邸が言っている以上、やらないわけにはいかないでしょう」と当初から規制改革会議案に協力的な姿勢を示した。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)をめぐり、党TPP対策委員長の西川公也衆院議員は、農業関係会議で「(規制改革会議の農協改革は)TPP交渉が進んでいないことから目をそらさせるのが目的ではないか」と幹部を突き上げるベテラン議員に対し「だまれ、小僧」と一喝し、反論を封じた。
西川氏はTPP交渉で政府の別働隊として交渉参加各国を飛び回り、農産品関税の維持を働きかけている。5月18日には外遊に向かう羽田空港で万歳会長と顔を合わせ、「JAは文句ばかりで礼の1つも言えないのか」とTPP反対一色のJAに怒りをぶちまける一幕もあった。
JAは「ワン・オブ・ゼム」の支持組織
複数の政界関係者によると、安倍首相や菅義偉官房長官は農業の成長産業化を進めるため、農協制度を抜本的に見直す必要性があるとの腹を固めている。政権が重要な成長戦略と位置づけるTPP交渉などに対して「組合員を大量動員して反対デモを繰り広げる姿が、首相周辺にはうとましく映っているのではないか」とこの関係者は語る。
1996年の小選挙区制導入以降、農協の後押しだけで当選できる議員はいなくなった。「自民党にとってJAが最大の支持母体であることは変わらないが、今はあくまでワン・オブ・ゼム」(内閣官房の幹部)。自民党とJAの力関係は様変わりしている。今秋にも内閣改造が想定される中、閣僚の有力候補となる農水族幹部が官邸に弓を引くような改革つぶしはできない事情もある。
農協改革の真価が問われるのは、今回の答申に沿って法案化が進む年末だ。これまで独占禁止法の適用除外や税制優遇などの対象となってきた協同組合組織をどう衣替えするのかなど、具体案の作成はこれからが本番。JAも巻き返しに手ぐすねひく中で、自民党農水族が官邸に「忠誠」を尽くすのか、「面従腹背」で終わるのかも、その時にははっきりすることになる。