支払期間の延長、受給開始を遅らせる、厚生年金の拡大
いずれにせよ、長期間にわたる試算は前提の置き方で大きく変わってくるので、試算の現実性をリアルに論じるのは難しい。そこで、制度変更によって、数値がどう変化するかという試算も示したのが、今回の特徴だ。
一つは基礎年金の保険料を支払う期間を現行の40年から5年延ばすケースで、前記のEケースで、給付水準は57.1%に6.5ポイントアップする。同時に受給開始年齢を遅らせて、その分、月々の年金額を増やせる「繰り下げ受給制度」も実施した場合はさらに給付率は上がり、68.2%となるとの試算も示した。
もう一つは厚生年金の適用範囲の拡大。2016年度から従業員501人以上の大企業で週20時間以上働き、月収8.8万円以上の人(25万人)に広げることになっているが、これを週20時間以上働き、月収5.8万円以上の人(220万人)に広げた場合と、同5.8万円以上の全員(1200万人)に広げた場合の試算も示し、前記のEケースで、給付水準はそれぞれ0.5ポイントと6.9ポイントアップするという結果になった。
年金保険料は労使折半で負担するため、現在は厚生年金非加入のパート労働者を多く抱える小売業などを中心に、企業サイドはこうした適用範囲拡大に反発するのは必至。高齢者の支払期間延長・受給開始年齢繰り下げには、厚労省も「一律実施は難しい」と見ていて、希望者に限っての実施では多くは期待できないとみられる。
ただ、経済成長率が想定を下回る可能性も考えなければならないとすれば、今回示されたケースを含め、制度変更の議論を早急に始める必要がありそうだ。