2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックの会場として予定されている3か所で、新設の中止や場所の変更の可能性が出てきた。
過去の五輪でも、開催都市に選ばれた後で当初予定していた会場を変更した例はあるようだ。ただ現在浮上している代替施設のひとつは、選手村から車で40キロほど離れた場所にあり、国際オリンピック委員会(IOC)が承認するかは不透明だ。
バスケットボールは都内ではなく埼玉で?
舛添要一東京都知事は2014年6月17日に開かれた都議会で、都民の生活への影響や建設費高騰の懸念により、東京五輪の会場計画については近隣県を含めた既存施設の活用を検討すると述べた。
東京は開催地に立候補した際、競技会場の85%を選手村から半径8キロ圏内に集中させ、「コンパクトで環境負荷の少ない大会を目指す」とアピールしていた。見直しにより、代わりに用意される既存施設として複数のメディアが報じている中には、8キロ圏内から大幅にはみ出すところもある。
新設取りやめの候補として挙げられたのが、バドミントンとバスケットボールの試合会場の予定地となっていた「夢の島ユース・プラザ」だ、整備費は364億円と見積もられている。この建設を中止し、バスケットボールを「さいたまスーパーアリーナ」で実施するのだと伝えられた。場所は都内ではなく、埼玉県さいたま市。報道が事実なら、選手村予定地からは車で首都高速5号線経由だと約40キロとかなり遠くなる。
現行計画でも、一部競技場は選手村から8キロ以遠となっている。例えば射撃が行われるのは陸上自衛隊朝霞訓練場(埼玉県朝霞市)、また近代五種競技の会場は「味の素スタジアム」(東京都調布市)と、隣接地に建設中の「武蔵野の森総合スポーツ施設」の2か所。いずれも選手村からの距離は車で約30キロだ。サッカーの試合会場である札幌ドームや宮城スタジアムといった「例外」を除くと、仮にさいたまスーパーアリーナが決定した場合、ゴルフ競技が開催される「霞ケ関カンツリー倶楽部」(埼玉県川越市)に次ぐ「遠隔地」となる。加えて、バドミントンは近代五種と同じ「武蔵野の森総合スポーツ施設」に変更される見込みで、これまた「8キロ圏外」となる。
ほかにも、ボート、カヌー(スプリント)競技用に新設予定だった「海の森水上競技場」は、水門の建設費が高額にのぼることが判明、またカヌー(スラローム)実施予定の葛西臨海公園は環境破壊の懸念から、いずれも別の場所に変更される可能性があるという。
ロンドン五輪では「世界的な経済危機」背景に会場変更
東京都オリンピック・パラリンピック準備局に聞くと、2012年のロンドン五輪でも当初計画されていた競技会場をその後変更したと舛添知事が言及していたようだ。調べると、バドミントンと新体操の会場が選手村から30キロ以上離れた「ウェンブリー・アリーナ」となっていた。2009年11月27日付の読売新聞によると、IOCが会場変更に同意した理由として、当時の世界的な経済危機が背景にあったという。巨額の建設費を節約する必要性が重視されたとみられる。
2008年開催の北京五輪でも、テニス会場の変更を巡って北京五輪組織委員会と国際テニス連盟の話し合いが難航と、共同通信が2005年2月12日に報じていた。招致段階の計画と違ううえ、代替の施設が当初の予定地から35キロ離れていることに連盟側が難色を示していた。実際にテニスが行われたのは、メーンスタジアムなどが建設された「オリンピック公園」内のコートだった。
実は2018年に韓国・平昌(ピョンチャン)で開かれる冬季五輪でも、スピードスケートやアイスホッケーの競技場建設に関して規模の縮小や設計の見直しが議論されているという。「五輪後の活用策に現実性がなく、運営費の負担が重い」(6月13日付朝鮮日報電子版)のが理由だが、新設しなければ当然代替施設を探さねばならない。
東京五輪の場合、仮に「8キロ圏外」の既存施設利用を推進するとなると、予算軽減の面では効果が期待できるが、最初に掲げた「コンパクト五輪」の理念からは遠ざかっていく。都側は高速道路の整備や移送手段の工夫によって選手への影響を軽微にしたいとの考えだが、選手村から30~40キロの施設が増えれば、ただでさえ都心の道路は日中の渋滞が予想されるだけに、移動に負担を抱える選手も多くなる。舛添知事は6月13日にIOCのバッハ会長と会談し、一定の理解を得た模様だ。だが具体的な見直しはこれからで、最初の計画から大きく外れるようでは「ひと悶着」あるかもしれない。