ファンの投票でAKB48グループの新曲参加メンバーを決める恒例の「選抜総選挙」では AKB48の渡辺麻友さん(20)が福岡・HKT48の指原莉乃さん(21)の連覇を阻止して初の栄冠を手にした。
本物の「選挙のプロ」である国会議員は、この「総選挙」をどうみているのか。永田町有数のAKBファンとして知られる自民党の丹羽秀樹、山本拓両衆院議員に、総選挙の意義や今後のAKBグループの展望について話し合ってもらった。
自宅で「恋チュン」ダンスを練習
――AKBファンを公言する国会議員は珍しいように思います。
丹羽: ファン歴は4年ほどで、楽曲で言えば「ヘビーローテーション」が流行った頃からです。ここ3年ぐらい、AKBのファンだと公言するのがはばかられる部分がありましたが、山本先生がAKBを評価されているということで、実力者の同志を院内で見つけて心強いです。
山本:元々ダンスが趣味で、12年度からダンスが中学校で必修化されました。これで学校現場の先生が苦労していたので、優れた踊り手を集めて2012年から「ダンスサミット」というイベントを開いています。このイベントの趣旨は「ダンスで日本を盛り上げよう」。14年のイベントの準備をしないといけないと思っていたときに、「恋するフォーチュンクッキー」のダンスを多くの人が撮影してユーチューブで公開しているのを知り、感銘を受けたんです。ダンスはマイナーなイメージでしたが、「誰でも明るく踊れる」という意味で、大いに応援したい。
――ご自宅でも練習しているそうですね。
山本:イベントの運営スタッフに検討してもらうにあたって、「自分でも体験してみよう」ということで、DVDを買ってきて部屋で流しています。うちの奥さん(高市早苗衆院議員)が仕事しているときに練習すると馬鹿にされるので、外出しているときに踊っていたら、帰ってきたときに「何やってるの!」って見つかっちゃって…。すぐばれちゃった。そんななかで、「AKBと言えば丹羽先生」というのを(高市議員から)聞きまして…。元々はエネルギー部会で一緒に硬い話をしていたのですが、180度違う柔らかい分野でタッグが組めたのは幸せです。
高橋総監督のスピーチは野党時代の谷垣前総裁と通じる
――国会議員にとって、街頭演説も重要だと考えますが、総選挙の順位発表後のスピーチで何か印象に残ったものはありましたか?
山本:スピーチは見ましたが、頭が下がりますね。日本の将来は明るい。「やったー!」と率直な感情を出す子が好きですね。
丹羽:誰かが作ったコメントじゃないですよね。自分たちに入った1票1票の重みを分かっています。中でも印象に残ったのは、推しメン(自分が特に応援しているメンバー)の「こじはる」こと小嶋陽菜さん(26)。小嶋さんは卒業がささやかれていたのですが、スピーチでは「しませーん!」と、案の定ひっくり返してくれました。高橋みなみさん(23)は、総監督としてのAKBに対する思いが、自民党の野党時代の谷垣(禎一)さん(自民党前総裁、現法相)と同じ感じがします。思いを背負っていますね。今回の握手会での傷害事件で、ガタガタになったAKBをどうやってまとめていこうかというのが、非常にコメントからにじみ出ていました。あそこまで考えたコメントをあれだけの舞台で話せるというのは、本当に努力のたまものです。
山本:大人は優れたステージをつくり、その企画に乗った人が当たり前にあれだけの動きをする。これが今の若い子のスキルなのでしょう。
是非握手会は続けてほしい
――今回の総選挙では、渡辺さんが指原さんの2連覇を阻止して初の1位を獲得しました。この結果をどう見ますか。
山本:「恋チュン」では指原さんが中心で、最初見たときは、正直「何でこの子が?」という思いがありました。でも何度も見ると味のある子。「恋チュン」では、渡辺さんは指原さんの隣で歌っていました。だから(渡辺さんの勝利は)順当なんでしょう。だれか一人が連覇するよりも、1位が入れ替わっていくほうが面白く企画を長続きさせることにつながります。絶えず、有権者も入れ替わっています。
丹羽:我々の選挙と違うのは、この点です。
山本:自分の選挙では、他の候補者の倍近い握手をして当選してきた自負があります。そういう点でも、有権者と候補者が触れ合いを持つことは大事で、AKBが握手会の数をこなすことは重要でしょう。嫌々ながら握手をしていても、有権者には伝わるものです。
丹羽:わずかな握手の瞬間で自らの思いを伝えるわけですし、我々も大勢の人と握手する中で熱意を伝えないといけない。この点では共通していますよね。
山本:是非握手会は続けてほしい。セキュリティーを万全にした上で、触れ合う機会は増やして欲しい。
丹羽:同感です。どう彼女たちがファンと接する機会を確保するかが、これからのAKBの課題です。
投票後のCD、主催者は有効活用の仕組み考えてほしい
――ほかに国会議員の選挙とAKBの選挙で共通しているところはありますか?
丹羽:(公式ガイドブックをめくりながら)ポスターが斬新なものが沢山あります。文字が赤抜きになったり、よく考えられています。自民党から出る候補者は、こういうのを参考にしてほしい。AKBの有権者はCDを買って1票を入れますが、我々の選挙ではポスターを見て決める人も多い。
山本:我々の選挙では1票を「入れてもらう」が、彼女たちは1票を「買ってもらう」。熱意のあるファンが「10票入れたいから10枚買う」というのは許される範囲でしょう。ただ、10~20枚でも買ったあと、投票した後のCDを施設に寄付するなどの仕組みがほしいですね。ポテトチップスでも似たような話があり、残念です。熱意は仕方ないですが、商品を買って不要になったのであれば、それを有効活用したり寄付したりといったスキームは、企画の主催者が考える必要があるでしょう。
――AKB総選挙の「有権者」の多くは若者ですが、実際の選挙では、若者の投票率が伸び悩んでいます。
山本:現行制度では選挙権は20歳からですが、いずれ18歳に下げる方向です。一部で反対論もありますが、彼女たちのように18~19歳があれだけしっかりしていれば、何の憂いもなく18に下ろしても大丈夫だという確信を持ちました。実際に選挙に行ったことがない若い人も、自分が投票した人がテレビで注目をあびたりすると、自分の投票で何らかの結果が出ることが分かる。そうすれば、みんな自然に選挙に行くようになる。広く考えると、「人を選ぶ」ということを自然に習慣づけるシステムで、我々としては政治的に何らかの応援をしてあげるべきです。
全国10ブロックで展開するのが理想??
――「本店」と呼ばれるAKB48本体への票は横ばいでしたが、福岡・HKT48の票は急激に伸びています。AKB総選挙でも地方分権が進んでいます。
山本:昔は「東京に行って一旗あげて…」という考え方もありました。だけど、地元に近いところで活躍の場があるのであれば、「やはり実家にいたい」という人もいるでしょう。普通の生活の延長線上で自分のタレント性やスキルを伸ばせる場ができるという意味では、各地に拠点ができるというのはいいことです。
丹羽:自民党内の部会でも、地域活性化の話題が出ます。その答えはAKBにあるのではないでしょうか。47都道府県は無理でしょうが、全国10ブロックでステージができるような環境が理想ですね。
――6月15日まで東京・秋葉原で開催されていた「総選挙ミュージアム」には稲田朋美クールジャパン担当相が色紙を寄せるなど、AKBはクールジャパン戦略の一環としても注目されています。
山本:東南アジアでは日本に対する信頼が厚い。少女時代やKARAのように、スキルでは韓国に及びませんが、身近に感じてもらえるのは日本でしょう。このノウハウは大事。
丹羽:日本の文化はよその国に押しつけるのではなく、ゆるやかに現地に根付いていくのが特徴だと思います。「使ってみて、よければどうですか」といったところでしょうか。
山本:政策的にも、丹羽先生とタッグを組んで、応援していきたい。普通の子が近くにチャンスを得てステージに立つ。こういった機会を大事にしたいです。
丹羽秀樹さん プロフィール
にわ・ひでき 衆院議員、自民党副幹事長、同文部科学部会長。1972年愛知県春日井市生まれ。東海高校、玉川大学卒。証券会社に7年間勤務し、高村正彦元外相秘書を経て05年9月に初当選、現在3期目。前文部科学政務官。
山本拓さん プロフィール
やまもと・たく 衆院議員、衆院拉致問題特別委員長、自民党資源・エネルギー戦略調査会会長、同福井県連会長。1952年福井県鯖江市生まれ。福井県立武生高校、法政大学卒。山本産業(株)代表取締役、(社)鯖江青年会議所1982年度理事長、福井県会議員2期歴任。現在衆院議員6期目。元農水副大臣。妻は高市早苗衆院議員(自民党政務調査会長)。