トヨタ自動車が、これまで「2015年」としてきた、燃料電池車の発売時期を年内に前倒しする検討に入った。
駆動エネルギーに水素を使う「究極のエコカー」と呼ばれる燃料電池車の量産で世界の先頭に立つことで、世界市場をリードしたい狙いもある。ただ、当然ながら本格的な普及にはさまざまな課題をクリアする必要がある。
実用化の一歩手前に
燃料電池車は既に国内では官公庁など向けにリース販売されている。燃料の水素を補給する「水素ステーション」も首都圏や中部、関西、九州などに17か所設置され、一般消費者の実用化の一歩手前まで来ている。日本ではトヨタとホンダが市販すると表明していた2015年が「燃料電池車元年」とも呼ばれている。
こうした中、トヨタは愛知県豊田市の元町工場で、セダンタイプの燃料電池車の量産を年内に始める方向となった。月産100台程度を見込んでいる。これに合わせて一般への販売も始める見通しだが、実際の発売時期は年明けとなる可能性もある。価格や発売する場所などを最終的に調整しており、トヨタとして6月下旬に何らかの発表をするものと見られている。今のところ価格は800万~900万円台が想定されており、水素ステーションのある大都市圏での販売が検討されている模様だ。
燃料電池車は水素と酸素の化学反応によって起きる電気でモーターを動かして走行する。排出するのは水だけで、ガソリン車などと比べて環境への負荷が格段に低い。
大気に悪影響を及ばすガスを排出しないのは電気自動車も同じだが、電気自動車との大きな違いは1回の燃料充填で走れる距離と燃料充填にかかる時間だ。電気自動車なら車種にもよるが一回の充電で100キロ~200キロ程度しか走れないが、燃料電池車の場合、水素をタンクいっぱいに充填すれば500キロ以上走るとされている。また、燃料電池車の充填時間は3分ほどで、ガソリン車並み。電気自動車は「急速型」でもフル充電に30分はかかる。
水素ステーションの拡大も
経済産業省が普及に向けて動き出していることも、トヨタの背中を押している。例えば経産省が5月30日に発表したのは規制緩和。高圧ガス保安法の省令を改正し、燃料タンクの容量を現状より拡大できることにした。これによって1回の燃料充填による走行距離は2割程度延長できる。今まで500キロと言っていたタイプなら600キロになる。ある程度の余裕を持って東京~大阪間を途中の水素充填なしで行けるわけだ。この省令改正は燃料電池車の国際的な基準に合わせるものでもあり、経産省は国産車の輸出にも寄与すると見ている。
このほか、経産省は今春、水素ステーションの設置基準も緩和し、2015年に国内100か所に拡大する目標に向けて動いている。
ただ、普及に向けた課題はたくさんある。電気自動車が今一つ伸び悩んでいるのも、充電スタンドなどのインフラ整備が進まず価格が手ごろにならないからだが、燃料電池車も同じ問題に突き当たる可能性がある。政府は成長戦略の一角に燃料電池車の普及を置く方針だが、補助金込みとしても消費者が買ってみたいと思う価格に下がるか、またインフラが整備できるかどうか。これらの問題を突破できるかが普及のカギになる。