北朝鮮の金正恩第1書記が、天気予報が外れ続けているとして憤っている。日本の気象庁にあたる機関を視察し、「事業を抜本的に改善」することを求めたほどだ。
北朝鮮の大部分では14年2月から干ばつが続き、農作物にも大きな被害が出ている。気象当局は4月中旬にはある程度の雨が降るとみていたが、5月になっても干ばつは解消されなかった。食糧不足のリスクが高まり、正恩氏が危機感を募らせている可能性もある。
「観測手法が現代的でない上に科学的でもなく、誤報が多い」
労働新聞や朝鮮中央通信といった北朝鮮の国営メディアが2014年6月10日伝えたところによると、正恩氏は日本の気象庁にあたる気象水文局を訪問し、総合予報室、国内通信室、国際衛星通信室といった部署を視察。その上で、
「観測手法が現代的でない上に科学的でもなく、誤報が多い。気象観測と予報が正確に行われて初めて、異常気象現象による災害から人民の生命や財産を守り、農業や水産業をはじめとする人民経済の様々な部門で、自然災害を適切なタイミングで防ぐことができる」
と現状の予報のあり方を批判した。「事業を根本的に改善しなければならない」と、組織の全否定に近い言葉も口にした。
正恩氏が視察先で幹部を叱責するのは珍しい。同様のケースとしては、12年5月に万景台(マンギョンデ)遊園地を視察した際、園内の道路が割れていたり雑草が生えていたりしたのを発見して「従業員にはこれが見えないのか」などと激怒したことが知られている程度だ。
「水を最も多く求める時期に干害を受け、作物の生育の度合いが非常に悪いと予測」
今回正恩氏が怒っている背景には、不正確な天気予報が食糧事情にも影響しかねないからだとの見方も浮上している。3月25日に朝鮮中央通信が配信した記事によると、2月10日から約40日以上にわたって首都の平壌市と周辺の平安南道、黄海南・北道の大部分で亜雨が降らない状態が続き、特に西海岸と中部内陸地方では1961年以来最も降雨量が少なかったという。この記事では、
「これらの地方に、今後4月中旬まで干ばつを克服できる雨が降らないものと予見される」
という記述もある。逆の読み方をすれば4月中旬にはある程度の降雨が見込めると予測していたことになる。ところが、5月2日に配信されたのは「ひどい干ばつが続く」という記事。記事では、干ばつで農業に深刻な被害が出たことを報じている。
「持続する干ばつ現象により、全国的に数千ヘクタールに及ぶ表作の作物である小麦、大麦、ジャガイモが被害を受けている。水を最も多く求める時期に干害を受けたので、作物の生育の度合いが非常に悪いと予測している」
予報が外れ、農業にも想定外の被害が出たこともあって、正恩氏が食糧不足への危機感を募らせたとの見方もできそうだ。