注意すべきは、裁量労働制の今後の運用
厚労官僚は、労働基準法の適用除外を回避するために、別の仕掛けも準備していた。今回の議論の対象でない裁量労働制だ。この制度は、労働基準法が適用され、労働時間概念は残っていて、実労働時間に関わらず、みなし労働時間分の給与を与える制度だ。
この対象になっている労働者は、専門業務型といわれる(1)研究開発、(2)情報処理システムの分析・設計、(3)取材・編集、(4)デザイナー、(5)プロデューサー・ディレクターなど19業種(労働基準法38条の3)と企画業務型といわれるホワイトカラー労働者(労働基準法38条の4)で、労働者に占める割合は8%程度だ。
ただし、制度の運用は、厚労官僚のさじ加減ひとつであり、はっきりしない部分が多く、使い勝手が悪い。こうした意味で、ホワイトカラー・エグゼンプションと裁量労働は似て非なるモノだ。
労働時間規制の議論の勝者は、産業競争力会議の民間議員や労働者でもなく、厚労官僚だ。適用除外を限りなく少なくして、その不満は裁量労働制で救っている。裁量労働制は、労働者の労働時間の「裁量」ではなく、厚労官僚の「裁量」を尊ぶ制度だ。一方、適用除外には、厚労官僚の裁量の余地はまったくない。厚労官僚の裁量は、今回の議論で確保されている。
今回の適用除外を年収1000万円以上とすることを、蟻の一穴という人がいれば、法律の素人で的外れだ。適用除外なので、今後の広がりは少ない。むしろ、今回の議論で対象となっていない裁量労働制は、厚労官僚の裁量によって、今後とも広がる可能性がある。残業代ゼロというアバウトな言葉を使わず、適用除外ではなく裁量労働制に注意すべきだ。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2005年から総務大臣補佐官、06年からは内閣参事官(総理補佐官補)も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「財投改革の経済学」(東洋経済新報社)、「さらば財務省!」(講談社)など。