英語能力証明テスト「TOEFL(トーフル)」と「TOEIC(トーイック)」が、英国留学のためのビザ申請に使えなくなった。両テストの運営団体と英内務省が結んでいた契約が終了したためというのが「表向き」の理由だ。
一時は全面的な除外と見られたが、その後英当局の対応に変化があり、一定の条件を満たせばTOEFLを引き続き活用できる道が開けた。ただ厳しい条件もあり、留学希望者は別の試験の受験も視野に入れた方がよいかもしれない。
「基準点」クリアしないと条件満たさない
「(2014年)4月17日時点で、TOEFLは英内務省の認証団体リストから外れました」
TOEFLとTOEICを運営する米ETSは、ウェブサイトでこのような告知を出した。主に海外留学の出願時に使われるTOEFLは世界で2700万人が受験し、130か国・9000校を超える教育機関で、入学・留学のために必要な英語力を証明するテストとして認められている。これまで英国やオーストラリアでは、ビザ申請にも利用された。だが英国では、対象から外れたのだ。
英内務省は5月22日付で、ビザとTOEFLやTOEICなどETSが実施する英語テストの取り扱いをサイト上で説明している。既にビザを取得している場合は影響なし。テストのスコアはあるがビザを申請していない人は、入国管理の新たな規制が整備されるまでの「経過措置」として、これまでどおりの条件で申請を受け付けるという。
一方、ETSのテストの申し込みはしているがまだ受験していない人は、英国の留学ビザを希望するなら別の試験を選ぶよう促す。このことから、4月17日より後にTOEFLを受験しても、現時点でスコアが手元にないとビザ申請には有効ではないと読み取れる。
だがその後、事態が動いた。TOEFLの日本事務局を務める国際教育交換協議会(CIEE)日本代表部は6月4日付で、4月17日以降のTOEFLのスコアでも「条件付き」で英国学生ビザ申請に利用できることになったと発表した。
その条件は、志望大学がTOEFLスコアを受け入れている、学位目的かそれより高いレベルに進学する、自身のスコアが大学入学、進学の要件を満たしている、というもの。加えてTOEFLのスコア自体にも総合点、リーディング、リスニング、ライティング、スピーキングのすべてに基準点を設けている。すべてクリアしないと、条件を満たさないというわけだ。
日本人にとってはスピーキングのレベルが障害になるかも
留学事情に詳しい国立大教授に聞くと、日本人にとってはスピーキングのレベルが障害になるかもしれないと指摘した。日本人の平均点は、ビザ申請条件で設定された基準点を下回る。大学側がTOEFLの総合点を見て入学許可を出したとしても、ビザ申請が却下されるケースが生じるのではと懸念する。
同じ留学でも、大学の学位ではない「資格取得」を目的とする、また専門学校や職業訓練学校を志望する場合は、条件外となるためTOEFLのスコアは認められない。「資格取得」のコースは期間が1年と大学と比べて短く、終了後に不法滞在や就労目的の入国の「隠れ蓑」に悪用される恐れもあるため当局が除外したのではないかと、教授は推測する。
スピーキングに自信がない、あるいは学位目的の留学でない場合は、TOEFL以外の認定テストを受ける手がある。大きな規模で実施されているのが「IELTS(アイエルツ)」だ。日本ではブリティッシュ・カウンシルと日本英語検定協会が共同で運営する。英国を含む135か国・8000の教育機関に認定され、年間の受験者数は世界で200万人に達する。「世界的には、今ではTOEFLの受験者を上回るかもしれません」と、教授は話す。
ただし難点もある。国内ではTOEFLと比べて受験できる場所が少ないのだ。現在、全国15都市で実施されているが、TOEFLは30都道府県、約60か所とずいぶん差がある。IELTSは、東京では月2回程度行われる一方、金沢や高知の会場は半年に1度しか実施されず地方在住者にとっては不便だろう。申し込み期間も、IELTSが「各試験日の5週間前の金曜日の17時」なのに対して、TOEFLなら試験日1週間前まで、割増料金を払えば試験日前の営業日の17時まで受け付けてもらえる。
受験料の違いを指摘するのは、私立大で英語を教える女性教員だ。IELTS は2万5380円。TOEFLは225ドル(約2万3000円)とやや安い。
これまでTOEFL対策の勉強を進めてきた人にとって、急にIELTSにシフトしなければならないとすれば、頭が痛いだろう。
ひとまずは一定の条件下でビザ申請に認められるようになったTOEFLだが、英当局とETSの契約は今も切れたままだ。英内務省の物言いは「ETSのスコアの取り扱いは現在検討中」となっており、不透明な状況が続く。