「福島第一構内に残れ、と吉田さんが本気で言うはずはありません」
さらに、吉田氏による第一原発構内での待機命令が実際にあったのかという点でも、門田氏の取材結果とは食い違っている。朝日新聞の記事では、
「午前6時42分、吉田氏は前夜に想定した『第二原発への撤退』ではなく、『高線量の場所から一時退避し、すぐに現場に戻れる第一原発構内での待機』を社内のテレビ会議で命令した。『構内の線量の低いエリアで退避すること。その後異常でないことを確認できたら戻ってきてもらう』」
としている。一方、門田氏は自身の取材をもとに、J-CASTニュースにこう答える。
「そんな言葉を吉田さんが本当に使ったんですか。吉田調書にそれが出ているんでしょうか。それなら、なぜ直接表現で朝日は吉田調書を引用しないんでしょうか。仮に吉田さんが午前6時42分にそれを言っているとしたなら、それは、テレビ会議上のパフォーマンスでしょう。というのも、その直前に菅直人首相が東電本店に乗り込んで、"撤退したら東電は100%つぶれる。逃げってみたって逃げきれないぞ"と、ものすごい勢いで演説し、それをテレビ会議を通じてみんなが聞いていたわけです。その直後に、皆を退避させるわけですから、吉田さんが菅さんのことを意識して、いろいろな表現をした可能性はあるでしょう」
しかし、と門田氏はこう続ける。
「いずれにしても、すでにその時間は、多くの職員が緊対室を出たあとのことですよ。その時に免震重要棟にいた総務、人事、広報、女性職員等々の700人近い人間は、吉田さんの退避命令で、どっと出ていったわけです。そのあとで吉田さんはテレビ会議上のパフォーマンスとして、いろいろな発言をした可能性はあります。しかし、福島第一構内に残れ、と吉田さんが本気で言うはずはありません。サプチャン(格納容器の圧力抑制室)の圧力がゼロになったら損傷を受けているに違いないと思うので、第一の構内に残れ、などという命令を出すはずがないのです。そもそも防護マスクの数がまったく足りません。吉田さんは6時30分ごろに、すでに『各班は、最少人数を残して退避!』と言いました。その後は『フクシマ50』と呼ばれた69人の他には、ほとんど残っていなかったはずです」