飛行機に搭乗した客が不幸にも急死した場合、その遺体はどう扱われるのか。目的地に到着するまで「完全密室」の機内では一定のスペースが必要になるが、乗客にとっては気になるのも事実だ。
英国の航空会社ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)では、乗務員候補者の研修でこうした不測の事態での対処法を伝授する。テレビ番組で、その様子が公開された。
かつては「熟睡している客」を装わせた
英BBC放送は、BAの「内幕」に迫る番組を2014年6月2日からシリーズで放送中だ。BBCのウェブサイトで公開されている番組映像は日本からは視聴できないが、英紙インディペンデント電子版が5月28日付の記事で、第1回の放送の中から興味深いエピソードを紹介している。
番組では乗務員候補者に対する研修の様子が映し出される。フライトのさなかに突然死した乗客の遺体の扱い方について、女性の主任講師が述べるのだが、「トイレに閉じ込めるなんて、もってのほか」と注意を促したそうだ。死者に対して失礼であり、シートベルトを着用していないため着陸時に別のトラブルが起きる恐れが生じる。
かつてBAでは、乗客が機内で亡くなった場合、そのまま座席に「座らせた」状態にしていたと女性講師は告白する。席にウオツカのような強いお酒や新聞紙、アイマスクを置いておき、「熟睡している客」を装わせたというのだ。ただし現在ではこのような方法はとっていない。
現在では、客室乗務員が遺体の横の席に座り、到着まで寄り添うのだという。遺体は首まで毛布が掛けられる。トイレのような場所に置くのは尊厳という点に加えて、死後硬直が起こるとその後で遺体を動かせなくなるという現実的な問題もある。
一般的には、ファーストクラスやビジネスクラスに空席があれば、遺体を移動させて寝かせ、カバーをかける。満席の場合は遺体が動かないようにしっかりと包み、他の乗客の視界に入らない場所に「一時安置」するという。機体によっては、出入り口の横に目立たない形でロッカーが設置されており、ここが使われることもあるそうだ。
飛行中に乗客が死亡するという緊急事態で、航空会社としてはこれが最適の方法と考えるのだろう。だが他の乗客のなかには戸惑いを隠せない人もいる。
亡くなった人がすぐそばにいる衝撃でいたたまれない
2007年3月18日の米フォックスニュースの記事は、英サンデータイムズを引用する形で、BAが機内で急死した70代の女性をファーストクラスに移動させたケースを取り上げた。座席に体を預けさせるようにして、枕も使われていたという。今から7年前の記事であり、かねてからBAがファーストクラスを「緊急避難先」に利用していたことが分かる。
インド・デリーからロンドンまで9時間、女性の娘が泣きながらずっと遺体に寄り添った。だが、同じ並びに座っていた男性客にとっては「最悪の旅」となったようだ。眠っていた時、乗務員が何も言わずに、急死した女性の体をドスンと置くように座らせた音で目を覚ましたという。事情が分からないので最初は具合の悪い女性が移ってきたと思っていたが、女性の体が大きく揺れ、ずり落ちそうになるため不自然に感じ、尋ねたところ死亡している事実を知ったという。間もなく娘夫婦が席にやって来て、大声で泣き続けた。
肉親の死とそれに対する悲しみに理解を示す一方で、男性自身は「亡くなった人がすぐそばにいる」という衝撃と、悲嘆にくれる娘の光景が何時間にもわたって視界に入り続けたことで、いたたまれない気分だったと嘆いた。遺体が長時間、常温のまま置かれることにも衛生や安全の観点から不安だったという。BAの対応を疑問視した男性は苦情を入れたが、補償は確約されなかったそうだ。
類似のトラブルはほかにもある。2012年6月23日付の米ハフィントンポストは、ケニア航空に搭乗したスウェーデン女性が、急死した乗客の遺体の横に座らざるを得なかった事例を紹介した。遺体は3席分のスペースに横たえられ、カバーがかけられていたという。到着後、女性は航空会社側に損害賠償を求めた。数か月間のメールでのやり取りの末、航空運賃の半額に相当する713ドル(約7万3000円)が女性に支払われた。
豪格安航空のジェットスター航空でも、2011年に同様のハプニングが起きた。仏AFP通信2011年9月6日付の記事によると、食事中だった男性が突然苦しみだし、急死した。飛行時間は9時間以上残っていたがそのまま運航。ジェットスターは、死亡した男性の近くに座っていた乗客に対して協力と理解に感謝を示し、金券を提供したという。具体的な金額は不明だが「薄謝」に近いものだったようだ。