欧州中央銀行(ECB)が「マイナス金利」を導入する。主要国・地域の中央銀行での導入は初めてという「異例」の金融政策で、景気をテコ入れしてデフレに陥る事態を阻止する狙いがある。
マイナス金利になると、お金を預ける側の民間銀行がECBに預金すればするほど手数料を支払うことになり、損をする。日本でも「超」低金利が続いている。これ以上、下がれば「マイナス」だ。
日本のアベノミクスと同じような効果をもたらす
欧州中央銀行(ECB)が「マイナス金利」の導入を決めたのは、2014年6月5日に開いた定例理事会。ECBがユーロ圏18か国の銀行から預かるお金に付ける金利を現行のゼロから0.1%のマイナスにする。
あわせて、13年11月以来7か月ぶりに政策金利を現行の年0.25%から過去最低の0.15%に引き下げることも決めた。マイナス金利の適用とともに、6月11日から実施する。
マイナス金利によって、ECBにお金を預ける銀行は手数料を払うことになる。国際金融アナリストの小田切尚登氏は、「銀行は手数料を払ってまでECBにお金を預けることはしないので、企業の貸し出しにお金を回しやすくする効果が期待できます」と説明。また、ドルや円などの通貨より魅力が薄れることでユーロ安を招き、輸入品の価格上昇などを通じてインフレ率が高まるという効果も見込める。
つまり、日本のアベノミクスと同じような効果をもたらすことで、景気を浮揚させようというわけだ。
じつは、マイナス金利はユーロ圏に加わっていないスウェーデンの中央銀行が2009年に、デンマークが2012年に、通貨高を抑えるために導入したことがある。また日本でも、いまの安倍晋三首相が民主党から政権を奪取する直前の2012年11月に、日本銀行の金融政策について、「政策金利をゼロにするか、マイナス金利にするぐらいのことをして、貸し出し圧力を強めてもらわないといけない」と発言したことがあった。
これをきっかけに、それまでの円高が是正され、株価が急上昇しはじめたことは記憶に新しい。
小田切氏は、「12年1月にはドイツでも、6か月もの国債入札でマイナスになったことがありました。どこも金融緩和で、何かのきっかけでマイナス金利になることはめずらしくなくなりました。ただ、中央銀行が政策として実施するというのは、重い決断といえます」と話している。
ATMを何回も使うと預金利息より多くの手数料を払うことに
もっとも、こうした「マイナス金利」の金融政策が、消費者にどのような影響を及ぼすのかといえば、わかりづらいし、なかなか実感がわかない。前出の小田切尚登氏も「民間銀行と中央銀行とのやり取りですからね」という。
とはいえ、民間銀行にマイナス金利が反映されないとは言い切れない。
たとえば、日本の銀行が預ける日銀の当座預金の金利がマイナスになれば、企業への貸し出し金利や住宅ローン金利などをさらに押し下げ、その一方で預金には利用者を対象とした手数料が発生する可能性がある。
そうなれば、預金にかかる手数料しだいでは「タンス預金」が増え、場合によっては貸金庫に現金を預ける人が増えるかもしれない。銀行口座を閉じ、ハイリスクハイリターンを求めて株式や投資信託、不動産投資がいま以上に活発になったり、外貨や外債へのシフトが進んだりする可能性もある。
現在低調な個人向け国債は最低金利(0.05%)が保証されているため、安定志向の人にはいい投資先になるかも。国債は変動10年型であれば、金利上昇時にも対応できる。
もう貯蓄するのがバカらしくなって、「使ってしまえ」ということになる、との見方もある。
しかし、気づかないだけで、「すでに実質的にはマイナス金利で預金している人がいるかもしれません」と小田切氏は指摘する。
現状、日本の銀行の預金金利は「ゼロ」に近い。そのため、税込108円のATM手数料を使って現金を引き出せば、回数を重ねるほど預金利息より多くの手数料を払っていることになるからだ。
夜間に利用すれば、プラス108円の216円になる。もはや銀行預金は、ATM手数料を「安心料」と割り切って利用するしかないのだろうか。