民間から公募で選ばれた校長の不祥事が頻発している。特にひどいのが大阪だ。府立高校に4月に着任したばかりの校長が、2014年5月28日に大阪市内のスーパーで和菓子などを盗んだとして事情聴取されていることがわかった。本人は万引きを認めているという。
民間校長の不祥事は大阪に限ったことではないが、教育に生涯をかけようと意気込んで転職した民間人校長がなぜこうなるのか。
着任3か月で辞職、パワハラ、セクハラ、採用前の逮捕歴も
大阪府立高校の男性校長は日本航空で日航財団事業部長を務めた後に04年4月に長野県立高校の校長に就任、14年4月から現職を務めていた。
「就任後はいろいろな苦労はあったと思うが大きなトラブルはなく、我々としてはどうしてこのような行動をしたのか理解に苦しんでいます」
大阪府教育委員会は困惑している。大阪府の民間校長は14年4月時点で15人。
14年5月1日には府立高の女性校長(57)が以前に社長をしていた会社のミーティングに参加したり、高校のパソコンで会社に指示を出していたりしたとして減給10分の1、1カ月の懲戒処分を受けたばかりだ。
大阪市では2013年から公募採用を始め23人が着任したが現在は20人になっている。外資系証券会社にいた小学校の男性校長(当時38歳)は、13年6月に着任3か月で辞職した。生徒からは慕われていたようだが「体験を生かせる学校ではない」「年が若いから給料が安い」などといった理由から、特に謝罪もなく職を離れた。13年9月には、教頭に土下座を求めたとか、「どうして子供をつくらないの?」などと発言したなどと、3人の校長がパワハラやセクハラを疑われるといった騒動が起きた。14年5月には小学校の男性校長が、PTA会費約10万円を校内の金庫から持ち出したため現金管理が不適切だとして調査が入った。
民間校長の不適切な行動は大阪に限ったことではなく、任期途中で辞めてしまったなどといった報告がある。2003年には広島県尾道市立の校長が国旗掲揚・国歌斉唱をめぐって教職員と対立し心理的負担によって自殺した。22年には校長として採用された元会社員の男性が公募前に、女性の胸元を携帯電話で撮影したとして、神奈川県迷惑防止条例違反容疑で逮捕されていたことがわかった。
どうして民間校長にはこうした不祥事やトラブルが起きてしまうのか。民間校長を取材してきたというジャーナリストに話を聞いてみると、最大の原因は適材適所に配置できない「ミスマッチ」があるのだという。民間校長になるプロセスとして大きく2つにパターンがあり、1つは地元の有力企業などに自治体が相談して適任者を推薦してもらうやり方。もう一つは大阪のような公募だ。
校長を目指している教員から強い嫉妬を受ける
推薦にも問題があり、いきなり会社から「君を推薦したい」と伝えられる場合がある。もちろん教育に興味があって喜ぶ人もいるが、「左遷」と感じる人もいる。知らない職場に自分の意思とは違った形で行くわけだから何をすればいいのかわからず、これが「不協和音」の始まりとなるようだ。
公募の場合はこれまでの自分のキャリアを捨てる覚悟が必要で、それができる人は期待できるが、体のいい「転職」と思っている人もいる。そして、一般企業と教育現場は組織や思考が全く異なり、今まで自分を育ててきた企業の論理を持ち込むと、トラブルのもとになる。
学校では生徒や先生たちに加え、PTAといった組織や地域住民とのつながりといった人間関係が錯綜し、やらなければならない仕事が山積みだ。さらに、外部から来た校長ということで、同僚であるはずの教職員の見る目は厳しく、校長を目指している教員からの強い嫉妬もある。
「ある小学校の民間校長は毎朝校門に立ち生徒たちに挨拶をしていたのですが、その校長が校門を通る先生方におはようございますと挨拶をしたところ、ほとんどの先生がそれを無視していていまして、私はそれを見て驚き、民間校長は気の毒だなと思いました」
大阪市では民間校長の不祥事が続いたことで、15年春の校長採用経費2800万円を削ることを決めた。民間校長制度は継続させる予定だが経費がない以上どうやって採用するのか、と市の教育委員会は悩んでいる。
「大阪市の採用は限りなくゼロに近付くと思います。そもそも民間で活躍した人が大学教授になるのはわかりますが、同じ教育といっても学校の校長は全くの別物であり、人選によほど気を付けなければ民間校長によるトラブルは続いていくと思います」
前出のジャーナリストは悲観的だ。