中東で感染が広がっている中東呼吸器症候群(MERS)をめぐる行政当局の対応が、 03年に東アジアで流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)と同様の展開をたどっている。
サウジアラビア政府は感染者の数を大幅に上方修正し、保健省の幹部が責任を問われる形で解任された。SARSの場合は、中国政府が北京市内の感染者数を9倍に修正し、やはり北京市長と衛生相が更迭されている。
感染者数を2倍、死者数を3倍近くに修正
MERSはMERSコロナウイルスによって引き起こされる感染症で、2012年に中東に渡航歴のある人から初めて発見された。症状や発熱、せき、呼吸困難など。14年5月26日までに635の症例が世界保健機関(WHO)に報告されており、そのうち死亡者は193名。感染者は30%という非常に高い確率で死に至っていることがわかる。有効なワクチンや治療法はまだ開発されていない。
感染者は中東、アフリカ、ヨーロッパ、アジア、北米の計18か国から報告されているが、中東以外の症例は、すべて中東への渡航歴がある人や、渡航歴がある人と接触した人だった。
最も感染者が多いのがサウジアラビアで、従来は339人が感染し、そのうち102人が死亡したと発表されていた。ところがサウジ保健省は14年6月4日、12年以降のデータを検証した結果として感染者数を大幅に上方修正すると発表した。発表によると、感染者は688人で、そのうち282人が死亡。53人が治療中で、353人が回復した。感染者数が約2倍、死者は3倍近くに増えた計算だ。
13年ではサウジ東部での感染者が多かったが、首都リヤドや最大都市ジェッダに感染が拡大。ジェッダの病院内では職員が相次いで感染。巡礼者がウイルスを運ぶ形で、アルジェリアやマレーシアにも感染者が広がった。
4月21日には保健大臣が解任され、6月2日には副大臣も解任されている。感染拡大を押さえられなかったことや、情報開示の不手際に関する責任を取ったとみられている。
SARSは旅行者通じて北米にも感染広がる
実は11年前に流行したSARSでも、同様の構図がみられた。03年4月20日、中国衛生省は北京市内のSARS感染者数を40人から346人に大幅に上方修正。死者も4人から18人に大幅に増えた。情報公開を渋って感染を拡大させたとして、衛生相と北京市長が解任された。
SARSは広東省から北京、上海、中国全土へと感染が広がり、旅行者を通じて北米にも広がった。病院で職員に感染するケースも多数確認されている。こういった点でもMERSと酷似している。
サウジ保健省の発表には
「必要な対策はすでに行われ、今後発表される症例は正確で信頼でき、タイムリーなものになる」
とあり、信頼回復に努めたい考えだが、感染拡大が収まるかは未知数だ。
SARSでは03年にWHOが世界的な警報を出したため、旅行需要が冷え込んで航空会社は大きなダメージを受けた。