東京電力が計画する、燃料・火力発電事業の「包括提携」に対し、関西電力と中部電力の大手電力2社のほか、東京ガス、大阪ガスの大手ガス2社、さらにJX日鉱日石エネルギーの計5社が名乗りを挙げている。
事と次第によっては大規模なエネルギー企業再編につながる可能性を秘めるが、「包括」の意味合いをめぐっては各社の解釈に差もあり、どういう姿に落ち着くのか、なかなか見通せない。
火力の競争力強化の重要性が増している
そもそも、なぜ今こんな話が持ち上がっているかというと、東電が今年1月に政府に認可された「新総合特別事業計画」と呼ばれる新たな再建計画で、燃料・火力発電部門で包括提携の相手を探し、競争力を高める戦略を打ち出したためだ。
なぜ燃料・火力発電かというと、原発が再稼働せず、火力発電を動かす燃料費がかさんでいるからに他ならない。今の東電の燃料費は東日本大震災前の2倍に当たる年間約3兆円。新再建計画自体も、世界最大規模を誇る柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働を前提にしたものだが、原発直下の活断層調査に時間がかかっているため原子力規制委員会の安全審査が進んでいない。
元通産官僚ながら再稼働に慎重な地元新潟県の泉田裕彦知事が極めて慎重な姿勢であることもあって、新再建計画で想定した「7月以降に順次再稼働」は絵に描いたモチになりつつある。関西電力大飯原発(福井県)を巡り、福井地裁が5月に運転差し止めを命じる判決を出したことも逆風だ。
柏崎刈羽に原発は計7基。計画ではこのうち4基が2014年度中に再稼働すると見込んだが、ハードルが高まっている。それだけに、火力の競争力強化は重要性が増しているとも言える。
LNG調達における規模のメリットが魅力
東電が包括提携で目指すのは、まずは液化天然ガス(LNG)の調達規模を現状の年間2000万トンから3500万~4000万トンにかさ上げし、規模のメリットを生かして産出国などとの交渉力を高め、調達コストを下げることだ。さらには老朽化した火力発電所の建て替えや、シェールガスの調達強化などを想定している。
これを受け、名乗りをあげる側にも、LNG調達における規模のメリットは魅力。原発が止まっているのは、東電以外の電力各社も事情は同じで、火力でしのがなければならない以上、燃料費圧縮は共通課題だ。原発は持たないものの、ガス会社も調達規模の拡大は望むところと言えるだろう。
ただ、火力発電所の建て替えとなると話は少し違ってくる。主要メディアでは、「提携先にとって2016年の電力小売り全面自由化を控え、国内最大の需要地である首都圏での足がかりとなる」などと伝えられている。しかし、包括提携とは何か、燃料調達のみならず電力の「生産」「販売」をどこまで含めたものなのか、について東電の考え方が分からず、関電や中部電からは戸惑いの声も漏れるのだ。
原発再稼働の見込みが立たない今となっては、電力会社にとって火力発電は自社事業そのもの。それを本当に包括提携するとなれば、もはや経営統合に近い。ガス会社などにとっても、東電と提携することで「福島」の賠償や廃炉などと絡められては経営が揺らぎかねないとの懸念がある。東電は国が過半を出資する国策会社であることも、交渉をやりにくくする可能性がある。
東電は5社の提案内容を踏まえて各社とやりとりし、今秋にも優先交渉先を決め、年内の提携締結を目指す。その交渉は、「国策」でもあり、行方が注目されている。