ピーチ・アビエーションやバニラ・エアなど国内の格安航空会社(LCC)でパイロット不足が深刻化し、相次いで運航中止へと追い込まれる異常事態に陥っている。
パイロット育成には時間がかかる上、世界的なLCC人気の高まりで人員の獲得競争は激しさを増している。各社が十分な人員を確保するのは容易ではなく、当面は「視界不良」が続きそうだ。
急成長に伴う路線増や増便が人員不足を招く
成田空港を拠点とするバニラが2014年5月中旬、機長不足を理由に6月の成田-那覇線、成田-新千歳線の2路線の一部で約150便を欠航すると発表した。本来は26人の機長が必要だったが「後発組で実績がないため採用する力が弱かった」(石井知祥社長)ことに加え、病欠や退職が重なり、23人に減って3人不足することになった。
関西空港を拠点とするピーチも4月、パイロット不足を理由に5~10月で最大約2000便を減便すると発表した。機長52人のうち病気などで8人が乗務できなくなったためで、新規採用も難しい状況だという。また、成田拠点のジェットスター・ジャパンは関空の第2拠点化に伴い6月から関空―那覇、関空―成田、成田―福岡など計5路線で増便を予定していたが、準備が間に合わずに6月3~11日の約100便の欠航を決めた。
LCCは機材や人員などコストを抑えて割安運賃を実現し、若者を中心に順調に客足を伸ばしてきた。ピーチやジェットスターが国内線に就航した2012年がLCC時代の幕開けとなったが、この2年間で国内線シェアは7.5%(3月末)へと拡大。就航時には経営破綻したJALからパイロットを確保するなどしてきたが、皮肉にも「急成長に伴う路線増や増便が人員不足を招いてしまった」(国土交通省関係者)わけだ。
争奪戦になれば、好条件の大手が強い
深刻化するパイロット不足の背景には、世界的な航空需要の高まりも影響している。欧米から始まったLCCだが、日本を含めたアジアにも拡大し、慢性的なパイロット不足に拍車をかけている。
パイロット育成にはコストと時間を要するため、そもそもコスト面から自社育成が難しいLCCは不利。そこで、「引き抜き合戦が日常化」(航空大手幹部)しているというわけだ。元々、LCCは世界的な航空会社の破たんで職にあぶれるパイロットを取り込んでいた面があり、パイロット需要の高まりでそのルートも細る。待遇がモノをいう争奪戦になれば、好条件の大手に人材を持っていかれてしまうのだ。
こんな状況に、航空業界からは「国内の航空行政にも責任がある」との恨み節も漏れてくる。日本では長年にわたって航空会社の新規参入が規制されてきたためパイロット育成も進まなかった。国内には2013年1月末で約5700人のパイロットがいるが、2022年には約7000人が必要になるとの見通しもある。航空大学校を出て機長として一人前になるには10年以上かかるだけに、政府はこの春から自衛隊パイロットの民間企業への転職を再開したが、どこまでカバーできるか未知数だ。
6月末には中国のLCCの春秋航空などが出資する春秋航空日本が国内線に参入する。昨年撤退したマレーシアのエアアジアも2015年をめどに国内線への再参入を目指しているように、LCC市場の競争は一段と過熱する見通しで、パイロット不足の解消は容易でないと見る関係者が多い。