「味ぽん」で知られる調味料大手、ミツカンホールディングス(非上場、愛知県半田市)は2014年5月22日、英蘭系食品・日用品大手ユニリーバから、パスタソース事業を21億5000万ドル(約2150億円)で6月に買収すると発表した。
国内食品市場の頭打ちを受けて海外に活路を求めるものだが、直近の年間売上高(2014年2月期、1642億円)を上回る大きな決断。老舗メーカーのグローバル化の成否が注目される。
国内市場は盤石だが頭打ち
「日本、北米、欧州のバランスの取れたグローバルな事業展開をすることで、企業の事業継続を実現していきたい」
名古屋市内で記者会見したミツカンの中埜和英会長は買収の狙いをこう語った。
ミツカンは主力の「味ぽん」が国内のポン酢市場の6割を占め、ブランドの浸透度も非常に高いが、いかんせん国内市場は頭打ちだ。実際、国内事業の売上高は2014年2月期に前期比1%増にとどまった。半面、過去数年にM&A(企業の買収・合併)を積極化した海外事業は66%増と大幅に伸びた。ミツカンは特に先進国で足場を固める戦略を貫いており、事業買収先も英米企業のソースや料理用ワインなどのメーカーが多い。これが、前記の会長発言につながっているわけだ。
今回の買収により、2014年2月期に3割強だったミツカンの海外売上高比率は5割を超える見通しで、文字通りグローバル企業となる。
今回買収するのは、北米を中心に展開する「ラグー」「ベルトーリ」の2ブランドと、米国内の2工場。2ブランドは「全米で最も親しまれている」(中埜会長)という。「北米、欧州の家庭用市場は寡占化が進み、ナンバー1か2でないと生き残りが難しい」(中埜会長)ことを踏まえたものだ。
ミツカンとしては10年以上前からナンバー1メーカーをターゲットに買収の準備をしており、今回の2ブランドが今年2月に売りに出された際に「獲得のチャンス」(中埜会長)と考え、入札に参加した。
年間売上高を超える買収資金は自己資金では賄えず、まず短期資金を三菱東京UFJ銀行などメガバンク3行と政策投資銀行から調達。自己資金で一部を返済した後、長期の借り入れにシフトし、7年で「無借金の状態になる予定」という。裏を返せば、これまで無借金経営が続いていた中で、金融機関の融資に頼る買収に踏み切るのは大きな賭けとも言える。
8代続く老舗メーカー、納豆でも成果
ミツカンの創業は江戸後期の1804年。酒造家から分家した初代「中野又左衞門」が、江戸で流行の兆しがあったすしを見て「すしには酢が必要だ」と思いつき、酒粕を原料とした酢づくりを始めたのが創業の物語だという。
地道に祖業の酢づくりを守りながら大ヒット商品「味ぽん」なども生みだし、当主の名前が途中で「中野」から「中埜」に、「又左衞門」が「又左エ門」に変わりつつ現在、8代に及んでいる。1997年には本格参入した納豆事業が国内で高いシェアを維持して経営の柱となるなど、経営の安定・多角化も順調に進めてきた。
しかし、「国内有力メーカー」の地位に甘んじず、海外展開を進めているのが今のミツカン。サントリーホールディングスなどと同様、思い切った決断力は非上場オーナー経営の強みとも言える。
過去にはビールやハンバーガーショップにも挑んだ歴史もある。そのチャンレジャー精神が今回も生きていたということだが、ミツカンの挑戦の成否は、市場収縮に直面する日本の食品業界の行方を占うことにもなりそうだ。