政府・与党で整備新幹線の開業時期の前倒し論が浮上している。2025年度に開業が予定される北陸新幹線の金沢-敦賀間を3年、2035年度開業予定の北海道新幹線の新函館(仮称)-札幌間を5年、それぞれ短縮することを目指すというのだ。
地元自治体から強い要望が出ているのだが、財源の確保などめぐる関係者間の意見の隔たりは大きい。
自民・公明が旗を振る
整備新幹線は1970年に施行された「全国新幹線鉄道整備法」に基づき、1973年に整備計画が決まったもの。北海道、東北(盛岡-新青森)、北陸、九州・鹿児島ルート、同・長崎ルートの計4新幹線5路線を指し、70年当時、すでに開業していた東海道、山陽新幹線をはじめ、計画が動き出していた東北新幹線・東京-盛岡間、上越新幹線は含まない。整備新幹線の総延長約1460キロのうち東北と鹿児島ルートはすでに全線開業し、未開業の約780キロが残る。北陸は長野までは開業済みで、長野-金沢は2015年春、北海道の新青森-新函館間は2016年春に開業する予定だ。
整備新幹線の工事費用は、JRからの貸付料で賄う分を除いた残りの3分の2が国、3分の1が地方の負担と決まっており、2014年度の建設事業費1560億円のうち国が約720億円、地方が約360億円をもつ。
開業前倒しの旗を振っているのは自民、公明両党の国会議員でつくる「与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(PT)」。地元自治体や政治家の強い要望を受けてのことで、工事により地元の建設業界が潤うほか、新幹線開業による沿線地域の観光振興や企業誘致などの波及効果を期待している。例えば北海道は札幌延伸の経済波及効果を年964億円と予測し、開業が4年早まると1039億円に高まるといった試算を出している。
公共事業予算から捻出することには抵抗感も
そこで問題になるのが財源。PTの求めに応じて、国土交通省が5月13日に示した試算によると、将来的に4700億円程度の貸付料収入が見込まれ、これを担保に金融機関から融資を受ける方法で2000億円程度は開業時期の短縮に使うことができ、これだけで北陸1年、北海道2年前倒しが可能。3~5年前倒しには、新たに国と地方合わせ3400億円程度の財源が必要――という。
ただ、関係省庁や自治体の思惑は一様ではない。国交省は、開業前倒し自体には異議はないが、公共事業予算から前倒し分を捻出するのには抵抗感が強い。省内の旧建設省と旧運輸省のパイの奪い合いになりかねないところだ。
財務省も一枚岩ではない。かつて、大蔵省(現財務省)の主計官が、整備新幹線を「昭和の3大バカ査定」(戦艦大和、伊勢湾干拓、青函トンネル)と同等の無駄だと酷評したことがあるように、整備新幹線の財源論になると、財務省は抵抗するのが常で、公共事業費総額を増やす形での国庫負担増には消極的だ。
ところが、今回は思わぬ矢が身内から飛んできた。麻生太郎財務相が「(開業を)前倒しできるのであれば前向きに考えたほうがいい」(5月13日の閣議後会見)と、語ったのだ。麻生氏といえば九州出身。地元九州新幹線を例に「(経済への)波及効果は極めて大きかった」という判断があるとされ、財務官僚も渋い顔だ。
地方自治体はというと、「厳しい財政を考え、地方負担の財源の拡充を国に要請したい」(高橋はるみ北海道知事)と、国頼みだ。
地方には、在来線の運営問題も、のしかかる。JRが運営するのは二重負担になるとして、県などが出資する第三セクターに運営主体を移す方法が主流になっているが、在来線は赤字路線が多く、経営を引き受ける自治体には大きな負担になる。
東京五輪に向けた人件費や資材価格等の上昇が見込まれるのも痛いところ。これまでも、例えば北陸新幹線の金沢-敦賀の場合、2003年の計画額8500億円が、現在の見積もりでは1兆1600億円に膨らんでいるように建設コストは常に上方修正を繰り返してきた歴史がある。国交省の試算についても「現時点の計画通りにいく保証はない」(野党筋)との懸念はぬぐえない。
無駄な公共事業への国民の視線が厳しさを増す中、公共事業全体の中に整備新幹線をどう位置付けるか。関係者の思惑が交錯する中、熱い議論の号砲が鳴った。