サッカーW杯ブラジル大会開幕が迫ってきた。日本代表は大会前最後の国内での壮行試合でキプロス代表を破ったが、エースの本田圭佑選手の動きがいまひとつさえなかった。
イタリア1部リーグ・セリエAの名門ACミランに移籍した今季は苦戦が続き、本来の実力を出し切れないままシーズンを終えた。キプロス戦の不調が「たまたま」なら心配ないのだが……。
セルジオ氏「来シーズンミランで蹴らして貰えないね」
「本田にため息、トップ下でミス連発」(スポーツ報知)
「ミランの本田、トップ下もさえずに不発」(日刊スポーツ)
「本田不発…キプロス戦勝利もザック監督『仕事してくれ』」(スポーツニッポン)
日本がキプロス戦に勝利した翌日の2014年5月28日、スポーツ新聞各紙は本田選手に厳しい見出しを付けた。日刊スポーツによる出場選手の採点で本田選手は、得点に絡めず途中交代となった柿谷曜一朗選手らと並ぶ最低点だった。
「らしくない」プレーが目に付いた。象徴的だったのが前半33分、敵陣でのフリーキックの場面だ。先制点が期待されたが、本田選手が蹴った球はゴールを大きく外れ、高々と飛んでいった。テレビ解説者は「ブレ球を打とうとしたが、ピッチが濡れていて(ボールの)下をたたいてしまった」と説明したが、精度の高いキックが武器の本田選手がこれほど外すのも珍しい。
サッカー解説者のセルジオ越後氏はこの場面を見ていたのか、ツイッターで「本田は来シーズンミランで蹴らして貰えないね…」と辛口コメントを残していた。
その5分前には味方との連携プレーからボールがつながり、最後は本田選手がシュートを打つが、力不足で相手キーパーが楽々キャッチ。アルベルト・ザッケローニ監督は何かを叫びながら、落胆の表情を見せた。
後半にはたびたびゴール前にクロスを放ってチャンスを演出したが、得点には絡めずじまい。試合後も表情は硬く、報道陣の取材に応じなかったという。
「フットボールレフェリージャーナル」を運営するサッカージャーナリストの石井紘人氏も、「本田選手の調子はよくなかった」と話す。フリーキックは軸足が定まっていない印象で、ボールの収まりやタメもほとんど見られなかったと指摘。コンディションが上がらなかったのは直前合宿の疲れが出たせいもあるが、ほかの要因があるとしたら心配だ。
「自分の家」であるトップ下で仕事すべきと監督
ザッケローニ監督は試合後、所属チームでの出番が少ない本田選手について、調子を取り戻すまでに時間が必要だとの見方を示した。キプロス戦でプレーした「トップ下」は、本田選手がかねがね「自分の家みたいなもの」と公言しているポジションだ。スポーツニッポンによると、監督は「もっと『自分の家』で仕事すべき」と注文を出したという。
石井氏は、本田選手がミランでは右サイドでの起用が多かったため、「しばらくトップ下から遠ざかっていたことも(精彩を欠いた)原因ではないか」と指摘した。この点、代表メンバーとの練習を重ねて、最終合宿地の米国で行われる2試合で「ゲーム勘」を取り戻せば、プレーもさえてくるだろうとみる。
キプロス戦が行われた5月27日、「報道ステーション」(テレビ朝日系)で本田選手の独占インタビューが放映された。ミランで右サイドを任された経験から、代表チームで右サイドを務める岡崎慎司選手の苦労が理解できたと話す。トップ下でプレーするだけでは分からなかった、新たな発見があったようだ。そのうえで、自身のパフォーマンスで右の岡崎選手、左の香川真司選手という攻撃陣の本領を存分に発揮させてやりたい、と熱く語っていた。
「やるべきこと」は分かっている。あとは本番までにベストに持っていけるかどうかだ。石井氏は、キプロス戦を見ただけでは本田選手のコンディションが「疲労や試合勘の問題」なのか「深刻な状態」なのかは判断しきれないという。不安がないわけではない。ただ、初戦のコートジボワール戦まで壮行試合が2戦組まれている。半月余りという時間の中で本田選手がどこまで復調できるかが、チームの浮沈を左右する。