「在宅医療の重視を打ち出しながら、実際には逆行する診療報酬だ」――開業医団体の全国保険医団体連合会は2014年5月15日、東京でマスコミ懇談会を開き、住江憲勇会長らが現場の危機感を強く訴えた。
健康保険の医療費は公定価格で、医療行為ごとに細かく決められている。これが診療報酬点数だ。厚生労働省は2年に1度改定するが、点数の上げ下げで、医療機関の診療内容を誘導することも狙っている。
「同一建物居住者」の区分が設けられる
2014年4月からの新点数について同会は十数目の問題点を指摘したが、最大の焦点と指摘したのは、通院できない患者宅を医師が定期的に訪れる場合の診療報酬だ。回数分請求の訪問診療料、月2回以上訪問した場合に月1回請求できる医学総合管理料から成り、在宅医療に参入しやすいよう比較的高い点数が付いていた。
ところが、今回はそれぞれに「同一建物居住者」の区分が設けられ、訪問診療料は2分の1、医学総合管理料は4分の1に大減額された。
同一建物とは老人ホームやグループホーム、高齢者専用住宅など。昨年、居住者をまとめて斡旋し、診療報酬の上前をはねる患者紹介ビジネスが話題になり、その対策として厚生労働省が減額に踏み切ったものだが、在宅医療に力を入れてきた医療機関が割りを食うことになった。
東京保険医協会の竹崎三立・副会長は「これほどの減額は予想もしなかった。医学総合管理料は通常のマンションや団地の同じ棟も同一建物扱いで、マンション住まいの高齢者が増えている都市部ではとくに深刻だ。また、支払い請求時に、診療人数や診療時間、理由などの添付文書が求められ、事務作業の負担も増す。これでは訪問診療をやめる医療機関が出るのは間違いない。厚労省に再考を求めたい」と強調した。同協会のアンケート調査では、患者の3割以上が同一建物居住という在宅医療支援診療所が4割もあり、2割以上が在宅医療の縮小や中止を考えている。
また、歯科の訪問診療はすでに同一建物居住者の2人目からは半額以下に減額されていたが、今回から2~9人、10人以上の3区分になり、10人以上は1人目の2割以下の診療報酬になるなど、さらに厳しくなった。
(医療ジャーナリスト・田辺功)