東京証券取引所の取引時間拡大をめぐる議論で、東証が難しい立場に立たされている。インターネット証券が求める夜間市場の開設に大手証券会社が賛成する見通しが立たず、「落としどころ」として夕方に取引する案が浮上したものの、ここに来てネット証券、大手証券の双方から「夕方案」に反対の声が上がっているためだ。
東証は2014年7月にも結論を出す方針だが、証券業界を一つにまとめる妙案は見当たらない状態だ。
当初、午後9時~午後11時の夜間取引を軸に検討
「『延長ありき』のニュアンスがそもそもいけない。夜間も夕方も反対だ」。大和証券グループ本社の日比野隆司社長は5月14日、記者団に対してこう語気を強めた。大手証券会社のトップが取引時間拡大に明確に反対を表明したのは初めてのことだ。
国際的に地盤沈下が懸念される東証は、マーケットの活性化策として、海外と比べて短い取引時間の拡大検討を打ち出し、14年2月に有識者による研究会(座長=川村雄介・大和総研副理事長)を設置した。研究会は当初、午後9時~午後11時の夜間取引を軸に検討を進めていた。夜間市場開設は、仕事を終えたサラリーマンらの参加が見込めるとして、ネット証券が強く要望。東証にも、取引時間が重なる欧米の投資家を呼び込めるとの期待があった。
しかし、対面営業が中心の中堅証券会社や大手証券には、夜間に働く社員の負担が増し、人件費などのコストもアップするとして反対が根強かった。そこで浮上したのが、現状の取引終了時刻の午後3時以降、午後5時ごろまで取引する「夕方案」。香港やシンガポールなどと取引時間が重なり、アジアの投資家の参加が期待できるうえ、「大手証券にとっても、夜間市場よりは抵抗感が少ない」(東証関係者)との見方があり、事実上の落としどころとの位置づけだった。
ネット証券も「夕方では時間拡大の意味がない」
ところが、ふたを開けてみると、大和証券グループ本社の日比野社長の発言が示す通り、夕方案に対しても大手証券は強く抵抗している。しかも、取引時間拡大を支持するネット証券も「夕方では勤務時間中のサラリーマンが取引しづらく、時間拡大の意味がない」(幹部)と難色を示しており、妥協案になるどころか、誰からも支持されない案になりかねない状態だ。
5月16日に開かれた4回目の研究会では、取引時間拡大への賛成は「半分くらい」(川村座長)にとどまったという。川村座長は会合後、「白熱した議論になり、収束しなかった」と述べ、研究会が7月にまとめる予定の報告書は「夜間か夕方か」についての結論は出さず、論点整理にとどまるとの見方を示した。
そもそも、証券業界では「夜間や夕方に取引したいというニーズがどれほどあるのか」(大手証券幹部)など、取引時間拡大が市場活性化につながるのか疑問視する声も多い。ネット証券からも「参加者が少なければ、株価が乱高下する」との懸念が出ている。
旧大阪証券取引所との経営統合作業が山を越え、国際競争力の強化が最優先課題の東証にとって、取引時間拡大はぜひとも実現したいのが本音。東証幹部は「全員が賛成する案はない。関係者の意見を尊重して決定するだけだ」と平静を装うが、どの道を選んでも反発が予想されるだけに、決定まで頭を悩ませることになりそうだ。