東京電力福島第1原発の吉田昌郎元所長=2013年死去=が政府の事故調査・検証委員会のヒヤリングに対して語った内容を記録した「吉田調書」について、政府は2014年5月23日、吉田氏が政府事故調に提出した「上申書」を公開した。
吉田氏が体調不良で国会事故調のヒヤリングに応じられなかったため、国会事故調は「吉田調書」を政府事故調から借りて報告書を作成した。上申書は12年5月29日付で、政府事故調が吉田氏のヒヤリング調書全7通と、その録音を国会事故調に開示することを承諾する内容。
「お話の内容のすべてが、あたかも事実であったかのようにして一人歩きしないだろうか」
上申書では、
「私は、国会事故調が内部で調査のために用いる限りにおいて承諾するものであり、本件資料が、国会事故調から第三者に向けて公表されることは望みません」
と調書の非公開を求めており、
「本件資料が第三者に漏えいすることのないように、国会事故調において厳格な管理をしていただくとともに、国会事故調による調査終了後、国会事故調から貴委員会(編注:政府事故調)に開示資料を返却していただけるように取り計らっていただくことを希望いたします」
と念を押している。加えて、ヒヤリングに応じた際の状況を
「自分の記憶に基づいて率直に事実関係を申し上げましたが、時間の経過に伴う記憶の薄れ、様々な事象に立て続けに対処せざるを得なかったことによる記憶の混同等によって、事実を誤認してお話している部分もあるのではないかと思います」
と指摘しており、調書の内容が公になることで
「お話の内容のすべてが、あたかも事実であったかのようにして一人歩きしないだろうか」
などと危惧している。
調書非公開の正当性を強調する狙い
菅義偉官房長官は同日夕方の会見で、「会見では申し上げてきたが、なかなかその(上申書の)意図が伝わっていなかった」と話しており、上申書の公開を通じて、調書を非公開にしていることの正当性を強調する狙いがある。上申書は内閣官房のウェブサイトで公開されている。
吉田調書をめぐっては、朝日新聞が5月19日に特設サイト「『吉田調書』福島原発事故、吉田昌郎所長が語ったもの」を立ち上げ、同社が入手したとする吉田調書の内容を根拠に5月20日朝刊から連日1面で調査報道を続けている。
朝日記事によると、ヒヤリングは11年7月22日から11月6日にかけて計13回、時間にして29時間16分(休憩時間1時間8分を含む)をかけて行われた。吉田氏は初回のヒヤリングで、話した内容が公にされる可能性を通告され「結構でございます」と述べたとされる。朝日新聞は「吉田調書」を公開すべきだと主張しており、その根拠のひとつが、この吉田氏の発言だ。上申書が提出されたのは、この発言の10か月後だ。