北朝鮮の金正恩第1書記の元交際相手だとされ、銃殺説が報じられていた歌手の玄松月(ヒョン・ソンウォル)氏が健在だったことが明らかになった。
国営朝鮮中央テレビが放送したイベントで、正恩氏をたたえるスピーチをしていたことが確認されたからだ。しかも、その肩書きは正恩氏の指示で設立された「牡丹峰(モランボン)楽団」の「団長」。玄氏は銃殺されるどころか、大出世を果たしていたことになる。
12年3月には正恩氏の前で歌を披露
もともと、玄氏は北朝鮮当局から高く評価されていたようだ。12年3月8日に開かれたコンサートでは、司会者から促される形で観客席から舞台に上がって歌を披露している。このコンサートは、正恩氏も鑑賞していた。コンサートの様子を、当時の朝鮮中央通信は
「お産を控えている前ポチョンボ・エレクトロニック・アンサンブル(編注: 普天堡(ポチョンボ)電子楽団)の歌手ヒョン・ソンウォルさんの独唱『駿馬娘』」
と伝えている。出演者の出産予定といった個人的な事柄を国営メディアが伝えるのは、きわめて異例だ。
北朝鮮専門サイトのデイリーNKが脱北者の話として伝えたところによると、正恩氏と玄氏は、正恩氏がスイス留学から帰国した直後の00年頃に交際を始めたが、正日氏の逆鱗に触れ、別れさせられた。玄氏は06年頃に別の男性と結婚したが、正恩氏との関係は継続していたとの見方もある。
李雪主(リ・ソルジュ)夫人の写真を初めて国営メディアが報じたのは12年7月。デイリーNKの報道が正しいとすれば、元交際相手の舞台を鑑賞した4か月後に「正妻」を世界にお披露目していたことになる。
その1年後、玄氏の周辺に大きな動きが起こった。韓国の朝鮮日報は13年8月29日、玄さんや、著名な「銀河水(ウナス)管弦楽団」メンバーが8月17日にわいせつ動画を撮影するなど容疑で逮捕され、8月20日には公開の場で銃殺されたと報道した。だが、これは結果的に大誤報だったことが明らかになった。
労働新聞にはスピーチ原稿も載る
朝鮮中央テレビが2014年5月16日、第9回全国芸術家大会(全国芸能人大会)の様子を放送し、その中に玄氏が映っていたからだ。映像では、「牡丹峰楽団団長・玄松月」というナレーションが入っている。玄氏は軍服姿で
「牡丹峰楽団の創作家、芸術家はどこに出ても、敬愛する元帥様を敬うことにかけては誰にも負けないと断言したい」
「元帥様が最も愛する我が軍隊と人民のために、芸術創作創造の炎をより一層激しく燃え上がらせたい」
などと正恩氏に対する忠誠を誓った。
翌5月17日付けの朝鮮労働党機関紙「労働新聞」には、「新時代の音楽芸術革命の旗を高く掲げていく」と題した玄氏のスピーチ原稿も掲載されるという異例の扱いだ。
玄氏がかつて所属していた普天堡電子楽団は、正日氏が1985年に立ち上げたのに対して、牡丹峰楽団は正恩氏の指示で12年7月にスタート。デビュー公演ではロッキーのテーマが披露されたり、ミッキーもどきの着ぐるみも登場するなど、奇抜な演出が世界を驚かせた。この牡丹峰楽団の団長に抜擢されたということは、正恩氏が玄氏を重用していることを裏付けていると言えそうだ。