トヨタ自動車の2015年3月期の連結業績(米国会計基準)予想が「かなり控えめだ」(国内証券系アナリスト)と金融市場で話題になっている。営業利益は前期比0.3%増の2兆3000億円と、アナリスト予想の平均2兆6000億円を大幅に下回ったからだ。
2014年3月期の営業利益は円安などを追い風に前期比73.5%増の2兆2921億円で、6年ぶりに過去最高を塗り替え、2015年3月期もこれをさらに更新はする予想ではあるが、伸びは急減速。純利益予想にいたっては、2.4%減の1兆7800億円と3年ぶりの減益を見込む。豊田章男社長は「今期(2015年3月期)は踊り場」と繰り返し、慎重姿勢を貫いた。
利益が急拡大したのは円安・ドル高が大きい
5月8日発表のトヨタの2014年3月期連結決算は、売上高が前期比16.4%増の25兆6919億円で、過去最高の2008年3月期(26兆2892億円)に次ぐ2番目の水準だ。日野自動車とダイハツ工業を含むグループ全体の世界販売台数は、4.5%増の1013万3000台と、世界の自動車メーカーの年間実績で初めて1000万台を超えた。純利益は89.5%増の1兆8231億円と過去最高を更新した。
利益が急拡大したのは、安倍政権の経済政策「アベノミクス」が引き寄せた円安・ドル高が大きい。円安は営業利益を9000億円押し上げる効果があった。乾いたぞうきんをしぼるような、お家芸の「原価改善」の増益効果も2900億円にのぼった。リーマン・ショック以降の5年間に地道に積み上げた原価改善は累計1兆5000億円を超える。景気回復が進む米国や、消費増税前の駆け込み需要もあった日本などで新車販売が好調だったことも、売上高や利益に貢献した。
日本国内は消費増税による反動減に直面
ところが、豊田章男社長が「踊り場」と指摘し慎重姿勢に終始したように、2015年3月期は風景が一変する。
まず、輸出採算を改善させた円安の効果は一巡。むしろ為替変動が950億円の減益要因になると見込む。日本円と米ドルのレートが動かなくても、米国の金融緩和縮小などで米ドルが新興国通貨に対して強くなることで、新興国発の部品をドルで調達することが結果的にコスト高となるという計算。新興国といえばタイやインド、インドネシアなどの経済成長が足元で鈍っていることも、売り上げ面でもじわりと影響を与えそうだ。日本国内は消費増税による反動減と消費者の低価格車志向に直面する。グループ世界販売は1.2%増の1025万台を見込むが、国内計画に限ると6.6%減の221万台だ。
「未知の世界で成長を続けるには、無理な拡大はしない覚悟が必要だ」
豊田社長は8日の記者会見で、「(世界販売)1000万台という未知の世界で成長を続けるには、無理な拡大はしない覚悟が必要だ」と強調。その一方で、「将来の成長に向けた種まきを積極的に進めたい」として、環境対応車などの研究開発投資を前期比495億円増の9600億円とする計画も明らかにした。
トヨタは常に堅めの業績予想を出すため、期中に予想を上方修正したり、実績が予想より上ぶれることが多いとはいえ、最高益を更新し、経営が「踊り場」にあるのも事実だ。端的に言えば、成長力のある世界一の中国市場をライバルメーカーのように取り込めず、市場が成熟した先進国中心のビジネスモデルから脱却できていないのだ。世界販売台数首位のトヨタも中国シェアは6位にとどまる。新興国の成長の果実を独フォルクスワーゲン並みに得られる日がトヨタに訪れるか、それが「踊り場」を脱するポイントと言えそうだ。