病院など医療機関で携帯電話を使っていいのか、迷う人は少なくないだろう。現在は医療機関によって使用制限がまちまちな携帯電話について、総務省と厚生労働省が科学的な検証を基に利用ルールのガイドラインを作成することになった。
政府は2014年夏にもガイドラインを定め、国内の医療機関に周知する方針だ。携帯電話の使用をめぐっては、航空機内も規制緩和の方向にあり、医療機関でも使用エリアが広がりそうだ。
使用制限をしていない病院はわずか5.0%
総務省が2014年1~2月に全国3000の病院に行った調査によると、病室など病院内で携帯電話の使用を原則禁止し、一部の許可エリアだけ認めている病院は全体の85.2%。「院内すべての場所」で全面禁止としている病院も9.8%あり、「使用制限をしていない」と答えたのは、わずか5.0%だけ。禁止の理由は「医療機器への影響」や「他人への迷惑」が大半を占め、「携帯電話の着信時に心電図モニターにノイズが出た」「人工呼吸器が突然停止した」など、携帯電話の影響が疑われる事例が報告された。
国内では携帯電話が普及しだした1997年、手術室や集中治療室などへ携帯電話の持ち込みを禁止し、診察室や病室では電源をオフにするよう求めた指針が官民で策定されたが、「医療機関への強制力はなく、アドバイスや参考情報の扱いになっている」(総務省総合通信基盤局)という。米国、英国、ドイツなども類似の指針を定めているが、同様に強制力はない。
使用ルールや安全対策定めたガイドライン作成へ
このため、国内の病院の対応はまちまちだ。琉球大学病院は「医療機器に障害を及ぼすため、患者に危険だ」として、院内と施設周辺で携帯電話の使用を全面禁止。愛知医科大学病院は「これまで医療機器に与える影響から全面的に禁止してきたが、行政機関の調査の結果、一定の条件を守って使用すれば問題ないことが明らかになった」として、「使用エリア」を定め、「携帯電話を医療機器から1メートル以上離して使用する」よう求めるなど、独自のルールを設けている。
政府は「近年の携帯電話や医療機器の性能の向上で、医療機器から一定の距離を確保するなど安全対策を行うことで、医療機関内で電波利用機器の活用を推進することができる」と判断。政府や医療関係団体、有識者、通信事業者などで組織する「電波環境協議会」が具体的な影響を調査し、使用ルールや安全対策を定めたガイドラインを作成することになった。
欧州委員会が機内での携帯電話使用を認める
航空機の機内でも使用制限は緩和される方向にある。現在の国内基準では、携帯電話やパソコンなどの電子機器は離着陸時の使用が禁止され、水平飛行時のみ無線LANへの接続などが認められているが、携帯電話の通話は禁止。しかし、米国は連邦航空局が2013年10月、離着陸時の電子機器の機内使用を解禁。欧州では欧州委員会が同11月、機内で携帯電話の使用を認める決定を行った。欧州の一部の航空会社は衛星を利用して機内でも通話ができるサービスも行っている。
日本でも国土交通省が航空機内の携帯電話の利用を認める方向で検討を進めており、医療機関ともども、携帯電話の利便性がこれまで以上に広がりそうだ。