南シナ海で中国が石油の掘削を始めたことをきっかけに、中国とベトナムの巡視船同士が洋上で放水の応酬を続けている。ベトナム国内では反中デモが相次いで行われ、中国企業が襲撃され、中国人の死者を出す事態まで発展した。
中国政府は怒り心頭で、ベトナム政府の責任を追及する構えだ。だが、逆に中国国内で反日デモが起こったときには、「責任はすべて日本側にある」と正反対とも言える態度を取っていた。中国政府のダブルスタンダードぶりが改めて浮き彫りになったとも言えそうだ。
中国外務省、ベトナムは「避けることのできない責任を負っている」
ベトナム国内の反中デモは激化する一方で、2014年5月14日に中部ハティン省で起きたデモでは少なくとも21人が死亡。そのうち16人が中国人だとみられている。これに対して、中国政府は強い反応を見せた。外務省の華春瑩副報道局長は5月15日の会見で、
「ベトナム側は、中国や他国の人や企業を標的に行われた打撃、破壊、略奪、放火について、避けることのできない責任を負っていることを指摘しなければならない。ベトナム政府が一切の責任を負って徹底した調査を行い、関係者を厳重に処罰することを求める」
とベトナム政府を非難。中国側に被害が出たのはベトナム政府がデモを容認したのが一因だとの見方を示し、損害賠償を求める方針だ。
対照的なのが、2012年に中国国内で起きた反日デモに対する中国政府の反応だ。12年9月11日には、当時の野田内閣が尖閣諸島を国有化し、直後から中国各地で反日デモが発生した。当初、中国政府は「愛国心の現れ」などと容認姿勢を示した。その後デモが激化し、日系スーパーの店舗に対して破壊、略奪行為が続出。にもかかわらず、中国政府はデモを直接批判することを避けた。
反日デモへの賠償は実行されていない
洪磊副報道局長(当時)は9月17日の会見で、デモについては、
「市民が法律の範囲内で訴えを理性的に表現するように求める」
と暴力行為をやめるように求める一方で、尖閣諸島をめぐる問題が日中の経済に対して与える影響については、
「日本が不法に尖閣諸島を買ったことによる日中関係への深刻な破壊的影響は、すでにじょじょにはっきりと現れており、これに関する責任はすべて日本側にあることを指摘したい」
と述べ、中国側の責任を認めなかった。その後、中国側は多少態度を軟化させ、原状回復や賠償に応じる可能性を示唆したものの、実際には賠償は実行されていないようだ。
岸田文雄外相は13年4月15日の衆院予算委員会の分科会で、
「今現在、(中国側が)補償を行ったという事実は確認されておらず、引き続きまして中国側にしっかり申し入れを行っていきたい」
と答弁。岸田外相によると、デモの被害を受けた日系企業の対応は、
「中国側に賠償の補償を請求している企業もあり、損害保険で対応している企業もあり、救済を求めずに再発防止のみを要請する企業もあり、対応はさまざま。現時点で中国側が補償を行ったという事実は確認されていない」
というのが実情だ。