連休期間中の5月2日、岩手県大槌町の町役場の町長室で辞令交付式がありました。碇川豊町長から辞令を手渡されたのは香川県三豊市出身の司法書士小山純徳氏(66)。復興庁が被災地の用地取得を支援するために採用した司法書士第1号で、大槌町に派遣されました。交付式で碇川町長が「復興が加速するよう期待しています」と話しかけ、小山氏は「被災地の復興のために力を尽くしたい」と応じました。
小山氏は30年間ほどの司法書士の経験があり、主に相続登記を手掛けてきました。友人の親戚が大槌で犠牲になったことから、大槌を希望し赴任してきました。仮設住宅から役場の復興局用地課に通います。これまでの体験が生かされ、用地買収が円滑に進むことが期待されています。
被災地では、復興事業に伴う用地買収が滞っています。特に、高台に移転する防災集団移転促進事業が、高台の用地買収が進まずに難航しています。
大槌町の場合、高台の移転先は17カ所で789戸の建設が予定されています。岩手県が4月24日に公表した「ロードマップ」によると、工事完了の見通しが遅れを見せ、「吉里吉里(2)団地、38戸」は1年遅れの2015年度末、「寺野団地、182戸」も1年遅れの2016年度末、「町方団地、100戸」は1年半遅れの2017年度半ばになりました。
なぜ用地買収が進まないのか。こんなケースがありました。土地所有者は江戸時代末期の文久年間生まれ。相続人が46人いて全国に散らばり、連絡が取れない人がいる――。買収予定地の所有者がわからなかったり、相続人が多数いて当事者間の話し合いに時間がかかったりしているのです。
大槌町を含めた被災地首長の強い要望により、復興特区法改正が4月末に成立しました。土地を強制的に買い上げる土地収用の対象拡大などが柱です。復興庁には用地加速化支援隊も設置されました。早期の用地買収に向けた環境は次第に整備されつつあります。しかし、状況が劇的に変わるわけではありません。
大槌町の仮設住宅は大槌川と小鎚川沿いに48カ所。全人口の約3分の1にあたる4,119人(3月末現在)の被災者が住んでいます。仮設住まいは4年目に入り、「生活不活発病」が進んだり、元気な人とドロップアウトする人との差が広がる「ハサミ状格差」の現象が生じたりしています。仮設暮らしから脱出できるのはいつになるのか。用地買収のスピードが、そのカギを握っています。
(大槌町総合政策課・但木汎)
連載【岩手・大槌町から】
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