過激なレトリックで知られる北朝鮮の国営メディアが、ここ数か月でさらに激しさを増している。その非難の内容は、米国や韓国の政策に関するものはもちろん、指導者個人の人格や人種、出自に関するものも多い。
両国は露骨に不快感を示しているが、北朝鮮は「わが住民らの憤怒に満ちた声に言い掛かりをつけて矛先をよそに向けようとしている」と意に介さない。
「血統さえ定かでない雑種」「人間の初歩的な容貌すら備えられない醜物」
特に米国を激怒させたのが、2014年5月2日に「世の中に1人しかいない不良児オバマに天罰を!」と題して配信された記事だ。「街の声」4人分を集めたという体裁で、最初に出てくる「千里馬製鋼連合企業所労働者」を名乗るカン・ヒョク氏の発言が特に過激だ。
「飛行機に乗り降りしたり演説に出てくるたびに、長い手足をじたばたさせながらぴょんぴょんさせて飛び出してくる様は、まったくもってサルのようだ」
「木から地面に落ちた実を手当たり次第食べるサルのよう」
「その見た目や立ち振る舞いを見てもそうだが、血統さえ定かでない雑種」
「政治家としてはさておき、人間の初歩的な容貌すら備えられないこのような醜物が、あえて尊厳高い自主国家、人類の桃源郷である私たちの共和国に指図をしている」
といったもので、オバマ大統領の容貌や出自を執拗に攻撃している。この記事は、金正恩第1書記の動静記事と違って日本語や英語では配信されなかったため、記事の存在が知られるまでに時間がかかったようだ。米国政府が公式に反応したのは5月8日の会見だった。国務省のハーフ副報道官は
「攻撃的で、非常識で、ふざけている」
「この(北朝鮮側の)言い回しについて言い表すためにどれだけ多くの単語を使えばいいか分からない。気分が悪い」
と不快感をあらわにした。
北朝鮮、米国が「言い掛かりをつけて矛先をよそに向けようとしている」と反論
ただ、この米国の反応には、5月12日北朝鮮の外務省報道官が朝鮮中央通信を通じて反論している。驚くべきことに、記事には全く問題ないという立場のようだ。
「ありがたい社会主義制度で幸せな生活を享受しているわが人民、自主性を生命よりも重んじているわが人民にとって耐えがたい冒とくであり、わが人民の憤怒は天についている」
「(米国は)わが住民らの憤怒に満ちた声に言い掛かりをつけて矛先をよそに向けようとしているが、そのような策動は絶対に通じない」
韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領に対する批判も同様だ。労働新聞が4月1日付で「性格の悪い年を取った処女」と表現したのに続いて、4月27日付の祖国平和統一委員会の談話では、セウォル号の事故直後にオバマ大統領の訪韓を受け入れたことを
「妓生(キーセン、芸者)の旦那に身を任せて他人を謀略にかけて害するずる賢い売春婦」
「極悪な事大売国奴、醜悪な米国の慰安婦、汚らわしい民族反逆売春婦」
と罵倒した。
この論評には、さすがに韓国統一部が4月28日に「常識以下の言動をやめるべき」と非難している。
現時点では安倍晋三首相の名指し批判を避ける
米韓とは対照的に、対日批判は現時点では抑制的だ。特に、安倍晋三首相を名指しして直接的に批判することは避けているようだ。
ウェブサイトで検索可能な限りでは、朝鮮中央通信が1月26日に「駐日中国大使、日中関係が安倍のために破綻したと主張」と題した記事を配信し、間接的に靖国神社参拝を批判している。
労働新聞が4月7日に掲載した論評記事では、安倍首相が集団的自衛権の行使容認に強い意欲を示していることを批判しているが、
「執権者は今年、『強い日本』を取り戻す戦いはこれからだとか、時代の変化をとらえた憲法改正のための論議を一層深化させなければならないなどと、ごたくを並べた」
といった具合に名指しを避け、「安倍」という固有名詞は
「これ(行使容認)は法の支配ではなく、人間の支配、安倍の支配」
といった識者コメントの引用部分に含まれている程度だ。
ただし、今後北朝鮮が態度を硬化させるおそれもある。宋日昊(ソンイルホ)・朝日国交正常化交渉担当大使は4月に行われた政府間協議の後に、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央本部の競売問題について
「朝鮮と日本の関係進展のための根本問題」
だとした上で、これが解決できなければ
「朝日関係を発展させる必要がないと思っている」
とまで述べている。5月12日に東京高裁が朝鮮総連の不服申し立てを棄却したことで、総連側は事実上の「大使館」の明け渡しを迫られる可能性が高くなった。このことで、北朝鮮が対日批判を解禁する可能性も出てきた。