日立製作所は2014年4月21日、中国南部の広州市に建築中の超高層ビルに世界最速のエレベーターを納入すると発表した。
世界でも高い技術を持つ日本メーカーは高速と安全をアピールし、都市開発が進む中国を中心としたアジアでの受注獲得を狙う。
東芝、三菱電機と三つどもえ
日立によると、広州市で2016年の開業を目指す「広州周大福金融中心」(地上111階、地下5階、高さ530メートル)というオフィスやホテル、住宅などが入る高級複合施設に、分速1200メートル(時速72キロメートル)を誇るエレベーターを納入する。
このエレベーターは地上1階から95階までの440メートルを約43秒で昇る。稼働中では台湾の101階の超高層ビルに採用されている東芝製(分速1010メートル)、建設中では今年12月末完成予定の上海タワーに納入される三菱電機製(分速1080メートル)を上回り世界最速となる。
日立は1968年に当時の国内最高速となる分速300メートルのエレベーターを開発し、日本初の超高層ビル「霞が関ビル」に納入。「東芝、三菱電機といった有力メーカーがそろう国内メーカーの中でもトップクラスの開発力、技術力」(日立関係者)を持ち、ビルの高層化などに対応してきた。2010年には高さ213メートルの研究施設を茨城県内に建設し、高速化と安全性を高める実験を重ねてきた。
研究で得た豊富なノウハウから今回納入されるエレベーター向けに大出力と薄型化を両立した永久磁石モーターを新開発し、かごを引くロープの強度を高めるなどして世界最速を達成。また、超高速でも耐熱性に優れた制動材を使ったブレーキを開発するなど安全性を高めたほか、かごの中の気圧変化で利用者の耳に障害が起きないよう独自の気圧制御方式を導入し、かごの横揺れ防止にも配慮するなど、超高速での快適な乗り心地も追求した。
日立は今回、この分速1200メートル2台に加え、ダブルデッキエレベーター28台、中低速エレベーター52台など計95台を納入する。
東南アジアや中東市場も視野
中国は都市開発に伴う超高層ビルの建設ラッシュが続いており、世界のエレベーター市場の6割を占めるまでになっている。エレベーターは納入だけでなく、「保守管理も含めた取引になるケースが多く、長期にわたって利益を確保できる」(業界関係者)というのもメーカーには大きな魅力。このため、中国でシェア15%の日立に東芝、三菱電機を加えた国内3社は高速化、大容量化を売りにシェア拡大を競っている。
とはいえ、世界一の市場めがけて欧米メーカーも参入に積極的で、競争は激しさを増している。業界では「主戦場の中国で受注競争に破れれば生き残るのが難しくなる」(メーカー幹部)と危機感を募らせる。同時に、経済成長でビル建設が見込まれる東南アジアや中東も有力市場となりつつあるとあって、メーカー各社は中国の「次」を見据えて受注獲得に向けた動きを活発化させている。