震災前に生活用水として利用されていた大槌町の中心市街地の湧水(自噴井戸)群。復興に向けた土地区画整理事業の本格化に伴い、全体の3分の1にあたる約60カ所の湧水が、安全性を確保するために密閉され、止水されることになっています。この湧水の閉塞(へいそく)に先立って2014年3月16日、2カ所の湧水で祈祷(きとう)が執り行われました。
祈祷は、「町方」と呼ばれる中心市街地の旧大槌地区と旧小鎚地区でありました。自噴井戸の前に祭壇が用意され、神事があり、大槌地区では、土地の神をしずめるために地中に「鎮物(しずめもの)」が埋められました。
近くに住んでいて祈祷に参加した臼澤光司さん(84)は「炊事、洗濯に使用し、夏は冷たく、冬は温かい湧水でした。お祈りをして安心しました。お別れかと思うとさびしい」と話しました。
湧水は町の中心市街地の約170か所で確認されています。名古屋市の大同大学工学部の鷲見(すみ)哲也准教授が指導した昨年5月の湧水一斉調査によると、水量は豊富で、水質は良好、水温は年間を通じて11度前後であることがわかっています。
湧水は、生活用水として住民の暮らしに根付いてきただけでなく、イトヨが生息する環境を支えてきました。イトヨは体長数センチのトゲウオ科の小魚。環境に敏感で、冷たくきれいな水の中でしか生きられません。サケのように海に下る「降海型」と、海に出ない「淡水型」があり、淡水型イトヨは町天然記念物に指定され、震災後、津波に耐えて生息していることが確認されました。
土地区画整理事業による盛り土の高さは平均2.2メートル。自噴井戸を完全に塞がないと、盛り土の重さで地盤が沈下した際に、自噴井戸のパイプが破損する恐れがあります。このため、盛り土する前に、パイプを密閉し、止水する必要があります。
土地区画整理事業区域外の多くの湧水は残され、区域内にあって止水されても、公園などの公共施設用地にある湧水は再生される予定です。「水都・大槌」の湧水を、まちづくりにどう利用するか。今後、検討が進められます。
(大槌町総合政策課・但木汎)
連載【岩手・大槌町から】
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