中部電力は2014年4月28日、最終損益が120億円の黒字とする2015年3月期の連結業績予想を発表した。同時に発表した2014年3月期連結決算は653億円の最終赤字で、4期ぶりの黒字転換を見込む。今年5月からの電気料金の値上げ(家庭向け平均3.77%)の効果を反映した形だ。
民主党政権時代に全面停止させられた浜岡原発(静岡県御前崎市)の再稼働は織り込んでおらず、原発なしでも何とかやっていけることが明らかになったとも言える。
老朽化した火力発電をやりくりして電気を供給
「老朽化した火力発電をやりくりして電気を供給している。中長期的に今の状況が続く事は厳しい」。決算発表会見で中部電の水野明久社長は、値上げやコスト削減の深掘りによって原発なしで黒字化するものの、原発なしでは経営の先行きが厳しい、という趣旨の発言を繰り返した。
「値上げしたのに赤字か」と言われても困るし、国のエネルギー政策上も「なんだ、原発いらないじゃないか」と言われるわけにもいかない、という苦しい立場を映し出した格好だ。
ただ、燃料価格など先行きが不透明な中、2015年3月期の利益見通しを示したのは全国10電力中、中部電と原発を持たない沖縄電だけ。あえて中部電が公表したのは、「黒字」を示すことで金融機関との融資金利交渉を優位に進める狙いがあったとも見られている。
もともと、中部電は電源に占める原発比率が15%程度と、全国の電力会社の中でもかなり低い部類に属する。東日本大震災後、全国の原発が停止し、各電力会社の供給能力がひっ迫する一方、火力発電の燃料コストがかさんで経営が悪化するなか、供給面でも財務面でも相対的には安定した会社だった。バブルに踊らず堅実な経営を続けた結果、安定した優良企業が多い東海地方の風土をも思わせる。
南海トラフ地震も想定し、海抜22メートルの防波壁設ける
値上げしても赤字から抜け出せず、財務基盤強化のために北海道電力が500億円、九州電力が1000億円、それぞれ日本政策投資銀行から出資を受けることを4月30日に発表したことと比べても、中部電の財務基盤はしっかりしている。北海道電や九電の自己資本比率は5~8%程度と電力会社の健全性の目安である15%を大きく下回る「危険水域」(経済産業省幹部)にあるが、中部電の場合「(3期連続赤字などで)大きく毀損した」(水野社長)と言ってもなお20%以上ある。
もちろんアベノミクスによる円安でこの間、燃料調達コストがかさんだが、その円安は一巡した。浜岡原発を動かさない分の火力発電の燃料コストはかかるが、半面、2019年ごろには米国から安価なシェールガスが輸入できる見込みも立ってきた。シェールガスこそ、中部電が先見性を持って取り組んでテーマで、その果実が目の前だ。
こうした中、中部電は浜岡原発の再稼働に向けて安全審査を原子力規制委員会に申請している。南海トラフ巨大地震も想定し、海抜22メートルの防波壁などを設ける安全対策工事費は総額3000億円規模に上り、「本気度」を示す。原発一基稼働が1000億円の利益につながるだけに再稼働を熱望するわけだ。しかし、原発なしで黒字転換を見込むなか、大金をはたいて再稼働させることが「経営の基盤を固める上でも必要」(水野社長)との見方に疑問を呈する向きもある。