漫画「美味しんぼ」の鼻血描写に批判が集まる中、言論プラットフォーム「アゴラ」にも寄稿しているジャーナリストの石井孝明氏がツイッター上で美味しんぼに対する猛抗議を展開した。
2014年5月7日、福島県双葉町が小学館に抗議文を送ったことを受け「こういう動きは当然」と息巻いてツイートを連投した。ところが、その流れで「雁屋哲をリンチしましょう」と発言したために、一転、石井氏自身も批判にさらされることとなってしまった。
「美味しんぼの件は、見せしめにぴったり」
双葉町が抗議したのは、4月28日発売の「ビッグコミックスピリッツ」22・23合併号に掲載された「美味しんぼ」第604話の作中に、双葉町にある福島第一原発を訪れた主人公らが原因不明の鼻血を出す描写や、「福島では同じ症状の人が大勢いる」という発言があったためだ。これに双葉町は「現在、原因不明の鼻血等の症状を町役場に訴える町民が大勢いるという事実はありません」と反論。すでに風評被害が生じていることも明らかにした上で、厳重に抗議した。
石井氏はこうした双葉町の対応を評価し、「福島を嘘、デマで貶める『日本人とは思えない人たち』に対して、立ち上がり、言葉の面で批判を」などと訴えた。その後、批判は次第にヒートアップし、
「美味しんぼの件は、見せしめにぴったり。(略)祭りは『血祭り』の方が興奮するし。嫌いな人民裁判に、私も乗ろう。風評被害撲滅の大義のため」
「私は漫画という文化に敬意を持つが、社会に意味のない漫画なら見せしめのためにリンチをして、吊るし上げても、影響はないだろう。だから心置きなくリンチして木に貼付けにしてやりましょう」
などと、比喩とはいえ、やや物騒なツイートを繰り返した。
発言はさらに続き、ついに雁屋氏にも「リンチ」という言葉が向けられた。
「放射能ママも電波系放射能デマッターも、今が戻るチャンス。『騙されていました。スピリッツのバカ』と抗議して知らぬ顔しましょう(略)きっかけのため雁屋哲をリンチしましょう」
リンチの語感を誤解していたと釈明
もちろん本当に雁屋氏への集団リンチを呼びかけているわけではないが、不適切な表現とみる人は少なくなかったようで、「ジャーナリストを称する人間が、言論ではなくてリンチという、制裁を許容するのですね」との反応も寄せられた。これに石井氏は「言論による市民による私的制裁という意味ならリンチとして使うけどね」と釈明したが、それでも発言が拡散すると「批判とリンチの区別ぐらいはつけましょう」「リンチといってますが、テロです。言論によるとか後付していますが、前段は暴力なわけです」などと批判的な声はあがり続けた。
「バクネヤング」などで知られる漫画家の松永豊和氏も、リンチ発言を問題視し「なんというバカ。なんという無知。作家というものは放っておけばなんでも書くキチガイであり、そこにこそ作家の価値がある。その倫理を見極め、世に送り出す判断を担うのは編集者だ。全責任は小学館にある」と、ツイッターで石井氏の主張に異議を唱えた。
すると8日、石井氏は「リンチ」を辞書でひいたところ、自身が考えていた「最大限で皆で糺弾する(文化大革命の軽いやつ)」ような語感ではなく、「頭筋肉の危ないプワーホワイトが殺人、私的絞首刑」というようなイメージだったとして、反省し、「みっともないが消そう」と前出のツイートを削除した。
石井氏は8日、アゴラに「放射能デマ拡散者への責任追及を--美味しんぼ『鼻血』騒動から考える」という文章を掲載、「もう福島原発事故から3年も経過し、社 会も落ち着いている。そうした中で、平穏を壊し冷静な議論を妨げるデマ情報、風評加害情報は、『情報テロ』と認定して、もう『鎮圧』をすべき段階にきている」と書いている。(22時45分追記)