取締役会室を新設
ただ、懸念もある。大田氏はパナソニックなどの社外取締役を務めてきた一方、企業経営や銀行実務に携わった経験はない。佐藤社長は「取締役会で決定するのは重要項目に絞り、監督権限に特化する。実務的な話は執行役に委譲するので、銀行のノウハウは必ずしも必要ではない。大田議長で十分務まる」と説明。大田氏らをサポートするため、取締役会室を新設したことや、みずほFGで財務担当の副社長を務めた高橋秀行氏が副議長に就くことも表明した。
それでも、社外取締役が「お飾り」になる懸念は残る。そもそも、みずほの暴力団融資は、取締役会に問題が報告されていたにもかかわらず、佐藤社長らが重要性を認識できず、放置していたことが最大の問題点だった。記者会見でも誤った説明が繰り返され、傷を深くした。「社内の人間でも情報を正しく把握していなかったのに、社内事情に疎い社外取締役が問題を見抜けるのか」(メガバンク幹部)との声は多い。
カギを握りそうなのが、大田氏とともに社外取締役に就く川村隆・元日立製作所会長の存在だ。佐藤社長は記者会見で、川村氏が日立のトップ時代、GE(ゼネラル・エレクトリック)に勝つという明確な目標を掲げ、委員会設置会社移行などのガバナンス改革や業績のV字回復を成し遂げたことを評価。「川村さんしかいないと思ってお願いし、最後に思いが届いた」と振り返った。
就任を要請する佐藤社長と川村氏のやり取りは、さながら面接試験のようだったといい、佐藤社長が改革への熱意を訴えることで、最前線から身を引くつもりだった川村氏をやっと口説き落としたという。佐藤社長は当初、新体制を3月末までに公表する方針だったが、1カ月近くずれ込んだのは、川村氏の説得に時間を要したことが一因だったようだ。
一時は経団連会長就任も取りざたされた川村氏の手腕に期待する声は多い。一方で、日立製作所はみずほの前身の旧富士銀行からの親密取引先でもある。「身内意識が勝り、経営監督が甘くなるのでは」(他のメガバンク幹部)との指摘もくすぶる。委員会設置会社が佐藤社長ら続投する経営陣の「隠れみの」になりかねないという声は根強い。