環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐる日米協議は、日米共同声明が発表され、オバマ大統領が離日する2014年4月25日昼までに実質的な基本合意に達することができたのか――この点でメディアの報道が大きく分かれている。
「実質合意」説を唱える数少ないメディアのひとつが読売新聞だ。政府が公式には合意を否定する中、続報では共同声明の前日には農業分野の「重要5項目」を含めて協議が決着していたとも報じている。では、政府は現時点でも「大筋合意も実質合意もなかった」と主張しているのはなぜなのか。
オバマ大統領離日直後の夕刊で読売だけ
オバマ大統領が離日した直後の4月25日夕刊では、大半の大手紙が「TPP 日米合意先送り」(日経)、「日米TPP 合意至らず」(毎日)、「TPP日米合意 見送り」(朝日)と足並みをそろえたのに対して、読売が「日米 TPP実質合意」と報じた。
TBS(JNN)も、4月28日には日米が4月25日早朝の時点で「大枠で合意」していたと報じ、読売新聞は5月2日続報で、協議は4月24日夕方にはまとまっていたと報じている。
読売やTBSの見方が正しいとすれば、政府はなぜ「実質合意」の事実を否定する必要があるのだろうか。
読売記事によると、政府与党は4月27日に 投開票された衆院鹿児島2区 補選で、与党候補が野党の相乗り候補に追い上げられていることに配慮したことが背景にあるようだ。仮に合意がなされていたとしてもその内容は不明だが、「合意した=豚肉や牛肉の関税引き下げという形で譲歩した」と受け取られる可能性もある。鹿児島県には豚の畜産農家が多く、「合意」情報が伝わると戦況が悪化しかねない、という懸念だ。
米側は「重要なヤマ場を超えた」
ただ、補選では与党候補が辛勝したこともあって、「実質合意」発表に向けた地ならしが進んでいるようにも見える。米国側の動きも、そのひとつだ。米通商代表部(USTR)のフロマン代表は5月1日に行われた上院財政委員会通商政策の公聴会で、日米協議は「重要なヤマ場を超えた」と述べ、成果を強調した。
この発言に対して、5月2日朝の官房長官会見では
「この意味するところは、日米で実質合意したということなのか」
と質問が出た。これに対して菅義偉官房長官は、一応は政府の従来の見解を繰り返した。
「これまで、甘利大臣や私が繰り返し述べているように、先般の日米協議では、重要な課題について進展があり、交渉は前進しているといえるが、大筋合意まではいっていない。まさに日米の共同声明にあったように、前進する道筋が特定できたということ」
ただ、その表情は苦笑いしているようにも見え、フロマン代表の発言については、
「私たちが述べた見解と基本的に同じだと思っている」
と付け加えた。
TPPをめぐっては、5月以降、ベトナムでの首席交渉官会やシンガポールでの閣僚級会合が予定されている。これらの会合の中で、「実質合意」の真相が明らかになる可能性もありそうだ。