韓国内で日本の名曲「千の風になって」が、旅客船セウォル号沈没事故の追悼曲に選ばれた。韓国で歌われる曲の収益金の全額が、被害者と遺族に寄付されると報道された。
韓国で音楽配信が始まると「遺族にお見舞いがしたい」「たくさん聴かなきゃ」などと大歓迎され、韓国の音楽配信チャートで1位となる盛り上がりになっている。しかし、困った問題が持ち上がってしまった。作詞作曲をしたのが日本人のため、収益金の多くが日本に流れてしまい、寄付できるお金が僅かになってしまうのではないかというのだ。
韓国の5つの音楽配信サイトで1位の大ヒットに
「千の風になって」は、作者不明のアメリカの詩に感動した作家でアーティストの新井満さんがそれをベースとして2001年に作詞作曲しリリースしたもの。日本音楽著作権協会(JASRAC)のデータベースを見ると、新井さん本人のほか国内海外含め92組のアーティストが歌っている。日本では06年のNHK紅白歌合戦でテノール歌手の秋川雅史さんが歌ったことをきっかけに大ヒットした。
そんな「千の風になって」が「セウォル号惨事の追悼曲」として発売されると韓国で発表されたのが14年4月25日だった。歌うのはテノール歌手のイム・ヒョンジュさん(28)で、イムさんは09年に故金寿煥カトリック枢機卿と故盧武鉉元大統領への追悼曲としてこの曲をささげた過去がある。ただしこの時は著作権の問題で英語バージョンでしか歌うことが許されていなかった。交渉は続けられ新井さんが13年末に韓国語で歌うことを許可したということで、再発売と追悼が重なる形になったのだそうだ。
「千の風になって」の韓国語バージョンは大歓迎されヒットチャートを駆け上っていった。イムさんは14年4月26日に自身のツイッターで、デビュー16年にして初めてBugsやCyworld Musicといった5つの音楽配信サイトのリアルタイム総合チャート1位を総なめにした、と報告し、
「遺族の方々に寄付できる金額が増えているということでもあり、聞いていただいた皆様には本当に感謝しておりますし、意義深い出来事だとも思っています」
と述べた。イムさんの所属事務所も時を同じくし、改めて「すべての音源収益を遺族に寄付する」と表明した。
しかし、この時点ではこれから待ち受ける問題にイムさんも所属事務所も気が付かなかったようだ。というのは収益金がどのように配分されるのかについてだ。
収益はどのように配分されるのか
韓国の経済誌「マネートゥデイ」の4月28日付けの電子版によれば、韓国国内のインターネット上で「千の風になって」が売れれば売れるほど、ほとんどのお金が日本に流れていくだけなのではないか、といった議論が起きているというのだ。それは日本の曲であるとともに作詞作曲者が日本人だからという理屈だ。
収益はどのように配分されるかについて「マネートゥデイ」は、通常ならば音源の製作者が44%、実演家(歌手など)6%、音源サービス会社40%、権利者(作曲家・作詞家・編集者) 10%で、イムさんと所属事務所が寄付する部分は、イムさんの歌唱の6%と、所属事務所の44%になると書いている。「マネートゥデイ」の取材に対しイムさんは、
「純粋な気持ちで寄付しようとしているのに、こうした議論が起きることは胸が痛いだけ」
などと落胆しているという。
日本では「千の風になって」が追悼曲に選ばれたというニュースに対し、日本が救助に向かうことを断った韓国のくせに、韓国のオリジナル曲ではなくなぜ日本の曲を選んだのか意味不明だ、などといった疑問がネット上に出ていた。